わたせせいぞう 永井 博 鈴木英人

シティポップできらめいて

1983年、『ハートカクテル』が連載スタート。
都会的な男女が織りなす、四季折々のストーリーに当時の若者は憧れを抱いた。
色鮮やかな洋服を身につけた、明るく優しい眼差しの登場人物たちは、華やかだけではない、洗練された時代の空気を伝えてくれる。

わたせせいぞう

永井 博

ながいひろし>> 1947年生まれ。81年の大滝詠一のアルバム『ALONG VACATION』のジャケットワークで一躍有名に。
余計なラインや色の混在を廃した、ペタ塗りの空や海の描き方などに特徴がある。
プールはよく描かれた画題。

鈴木英人

すずき·えいじん>> 1948年生まれ。
82年の山下達郎のアルバム『FOR YOU』のジャケットワークで注目される。
看板、オープンカーは定番の画題。
風の流れや太陽光線のキラキラ感を表して描かれる架空の紙吹雪やリボンが特徴。

キラキラした桃源原郷への憧れ
ジャケ写で火がついた西海岸風イラスト

海、プール、ドライブ、ヤシの木……アメリカ西海岸の風景を描いて一世を風靡した永井博と鈴木英人。
あれから40年、2人の作品が若者を中心にじわじわと再評価されているのはなぜだろう?
2019年に永井博の作品集のデザインを手がけたアートディレクターの前田
晃伸さんに話を聞いた。
「僕にとって永井さんはレコードジャケットの人、鈴木さんは英語の教科書の表紙の人、というイメージでした。
お2人とも昭和20年代前半のお生まれ、アメリカ文化に強い憧れを持っていた世代で、車や音楽やサーフィンといった西海岸カルチャーをベースにした作品を描いています。
でも、現地で見たままのリアルな写生ではなく、目に心地よいものだけを残して、不必要な要素はうまく省いている。
その結果、どこでもない架空の素敵な風景が現れて、日本人を魅了したのでしょう。
コロナ前、日本が経済もエンタメもだんだん落ち込み始めた頃に、韓国やタイ、台湾などは比較的経済が順調でした。
そうした背景のもと、若者文化が急成長しました。
日本のバブル期と似た絶好調の勢いを得て、あの頃の肢しくてキラキラした世界観を反映したイラストが『超わかる』と共感されるようになったのではないでしょうか。
彼らはもうこの絵からアメリカを想像しているわけではなく、どこかわからない理想のユートピアを見ているはずです。
それはアメリカ人にとっても同じで、ここに描かれている古き良きアメリカの風景はもう存在しないのでしょう。
こうして日本国外から火がついたブームが日本に再輸入されて、生まれた時から不況や災害続きで閉塞感の中に生きてきて、華やかな体験からずっと遠ざかっていた日本の若い世代も、この2人のイラストの明るく幸せな世界がグッと心に刺さったのではないかな。
時代を経て、同じイラストに対する違う見方が生まれたのだと個人的に思っています」