森琴音 わたしの願い

言葉は人に勇気を与えたり、傷ついた心を癒したりしますが、ときに鋭い鋭利なガラスのように人を貶める。
芸術とは一人の人間の内なる想いが見える形に現れるものだと思います。
産経新聞夕刊1面に毎日掲載している“夕焼けエッセー”、小学6年生、森琴音(12)の“わたしの願い”
事故の後遺症で肢体不自由となって、言葉を失った琴音。
言葉は意思を伝えるという伝達媒体であると同時に、一番身近な芸術にもなりえる。
そんな、人それぞれにその人にしか造れない言葉がるように思います。

森琴音

森琴音 「わたしの願い」
わたしはしゃべれない歩けない
口がうまくうごかない
手も足も自分の思ったとおりうごいてくれない
一番つらいのはしゃべれないこと
言いたいことは自分の中にたくさんある
でもうまく伝えることができない
先生やお母さんに文字盤を指でさしながら
ちょっとずつ文ができあがっていく感じ
自分の言いたかったことがやっと言葉になっていく
神様が1日だけ魔法をかけて
しゃべれるようにしてくれたら…
家族といっぱいおしゃべりしたい
学校から帰る車をおりてお母さんに
「ただいま!」って言う
「わたし、しゃべれるよ!」って言う
お母さんびっくりして腰をぬかすだろうな
お父さんとお兄ちゃんに電話して
「琴音だよ!早く、帰ってきて♪」って言う
2人ともとんで帰ってくるかな
家族みんながそろったらみんなでゲームをしながらおしゃべりしたい
お母さんだけはゲームがへたやから負けるやろうな
「まあ、まあ、元気出して」ってわたしが言う
魔法がとける前に
家族みんなに
「おやすみ」って言う
それでじゅうぶん