Hermes recommends 奥山大史

突き詰めた先に生まれる しみじみと心を満たす映像の力

昨年10月、エルメスは7人の日本のクリエイターたちの旅を追ったドキュメンタリーフィルム「Human Odyssey-それは、創造を巡る旅。-」を公開した。
総監督を務めたのは奥山大史。
彼の思慮深い視点と、若く鋭い才能に魅力を感じ白羽の矢が立ったという。
「年間テーマの「HUMAN ODYSSEY」を体現するドキュメンタリーを作ってほしいと言われ、日本のチームやパリ本国とは何度も対話を重ねました。本当に伝えたいことは何かを堀り下げる作業。そこで「一緒に原点に戻りましょう」 と言えるかどうかはすごく大事だと思うんです」と奥山。
エルメスと真っ直ぐ向き合いたどり着いたのは、メゾンの根幹をなす「手しごとの継承」という主題。
日本のサヴォアフェールとの出逢いの旅が、7本の美しい短編作品となった。
書道家の新城大地郎は宮古島で藍を染める職人と。
ミュージシャンの井口理は北海道を訪れ、アイヌ文化を継承する人々と時を過ごす。
7名それぞれが旅路のなかで、伝統を次の世代へとつなぐ作り手たちと語り合った。
「出演は僕が以前から興味を持っていた方々にお願いして、彼らが実際に会いたかった人を訪ねてもらいました。真のドキュメンタリーを作るなら、事前にテーマを決めたり演出したりせず、本当にその場で生まれたものを撮るべきだと思う
んです。エルメスはそのやり方をリスベクトしてくれましたし、ともに悩み、最後まで並走してくれました」
ひとつ「一人旅に寄り添えるようチームは少人数で」、ひとつ「カメラの台数は絞って回し続ける」。
”十戒”と名づけた10の約束を決めて撮影し、半年をかけ完成した。
企業から依頼された ”作品”であることは大前提に、仕上がりに妥協しないため 「自分の作品を撮るつもりで臨む」。
いまの奥山さんのプロジェクトとの向き合い方が形となったフィルムは、ウェブでの配信に加えて劇場でも上映された。
「映像をどう届けるかも一緒に考えさせてもらったんです。日比谷のシアターでお披露目をする一方で、全国のミニシアター31館でディレクターズカットの一夜限りの無料上映会が開かれました。いま小さな映画館って大変ですよね。彼らも
また、モノづくりに携わる一人一人だから、エルメスのような企業がサポートしてくれたら映画業界の端っこにいる僕としてはうれしいなと思って。それを快諾してくれたんですよ。宮古島に1館だけある小さなシネマでは地元の高校生を招待したりして……。手しごとの継承を伝えるフィルムから、それ以上の広がりやつながりが生まれていった。”創造を巡る旅”は、僕自身の旅にもなりました」
仕事に対するスタンスも以前とはずいぶんと変わったという。
コピーライター、CMプランナーとして広告会社に所属した数年は、表現すべきものに価値を見つけられず壁にぶつかった。
その時間を経て、”映口監督”として広告やMV、ドラマなどの制作に携わる現在、少しずつ自分のやり方が見えてきたと話す。
大切なのは「共感し合える」かどうか。
丁寧に時間をかけ、 よいと思うものを伝えていく。
そうやって「本当の意味で人の暮らしを豊かにすることができる。映像には
そんな可能性があると思うんです」と奥山。
「『HUMAN~』」 では3作品でカメラも回したんですが、 あらためていいなと感じました。僕自身が伝えたいことを自分の手の届く範囲で、脚本にして、撮影して、編集する。もう一度そうやって映画を撮りたいなと考えていて、少しずつ動き始めています。いろんな分野や手法をぐるぐると螺旋を描くように経験しながら、再び映画へと戻っていく。そんなふうにこれからも作品づくりを続けていけたらいいですね」

HUMAN ODYSSEY 
― それは、創造を巡る旅 ―

EPISODE 1

真摯にものづくりと向かい合う7人のクリエーターが、 エルメスのメンズの世界を背景にクラフトマンシップに出逢う旅に出るHUMAN ODYSSEY。

書道家・新城大地郎は、沖縄県宮古島で、インド藍を栽培し藍染と織を手がける人物と出逢う。
新城 大地郎×砂川美恵子(染色家) 新城大地郎さんの旅の目的地である砂川美恵子さんの工房〈想思樹〉。そこで新城さんは、砂川さんに教えてもらいながら、実際に藍を抽出し、染める工程を体験していきました。

伝統的な書に新たな光を当て表現活動を続ける書道家の新城大地郎が旅するのは、自らの故郷であり、現在の活動拠点でもある沖縄県の宮古島。
400年以上の歴史を誇る宮古上布と呼ばれる麻織物を伝統工芸に持ち、古くから藍染めが盛んなこの地と改めて向き合い、自らインド藍を栽培し、染料として用いてものづくりに向き合う女性染色家と出逢った。

EPISODE 2

フランスを拠点に、世界中で数多くの先進的な建築プロジェクトに携わる建築家の田根剛。
彼は、木や石などの自然素材を用いた日本の伝統的な数寄屋建築を手がける工務店〈三角屋〉の朽木工場を訪れた。
ここで行われるのは、建物を完成に近いところまで試作する「仮組」の 工程。職人たちの手仕事によって美しく計画的に生み出される「作りのいい建物」を目の当たりにする。
滋賀県高島市「三角屋」・朝比奈秀雄京都と滋賀をベースに、木や石などの自然素材を用いた日本の伝統的な数寄屋建築を手がける大工集団「三角屋」の親方。「宝」と称する職人たちを率いながら、素材一つひとつや地域と向き合い、環境に馴染む「あるがまま」の建物づくりを追求している。

EPISODE 3

<King Gnu>のボーカル・キーボーディストとして活躍するミュージシャンの井口理は、古くからアイヌの文化が根付く、北海道の二風谷へ。地域を縦断する沙流川流域では古くからコタン(集落)が形成され、現在でも人口の7割をアイヌの人々が占めるこの土地。その中心に立って文化を継承する生活用具や工芸品の作り手たちと出逢い、その手仕事や考え方に触れる。
北海道二風谷・「北の工房つとむ」
貝澤徹二風谷に生まれ、古くから伝わるアイヌ文様を施した木彫りのアートや工芸品を手がける「北の工房つとむ」を切り盛りしている。
明治時代に名工といわれた曾祖父から引き継いだ伝統を大切にした上で、独自の感性と技術をとけ込ませた独創的な表現が魅力だ。

EPISODE 4

単三型乾電池2本で動く「エボルタくん」など、数々の画期的なロボットを生み出してきたロボットクリエーターの高橋智隆は、江戸時代から和船建造に携わる東京都の〈佐野造船所〉へ赴く。
テクノロジーの最先端を知る彼が、伝統的な技術によって作られる美しく精巧なチークやマホガニー製のヨットやモーターボート、そして和船づくりの現場を目にし、感じることとは。

東京都江東区・「佐野造船所」佐野龍太郎江戸時代に創業し、木造の和船やヨット、モーターボートを生み出し続ける「佐野造船所」の九代目。
長きにわたって受け継がれた技術と、経験に裏打ちされた確かな勘を頼りに、一つひとつ手作業で世界に一艇しかない船をつくり続けている。

EPISODE 5

写真集や個展などを通じて、精力的に作品を発表し続ける写真家の木村和平が訪れたのは、福井県の越前和紙の老舗〈長田製紙所〉。
手漉き和紙の生産に加え、襖紙の繊細な柄付け技術を継承するこの工場。
現代インテリアに合った製品や、アート・ファッションなどへの応用も図り、古きを守りながら、絶えず挑戦を続ける職人たちの姿勢が、彼に語りかける。

福井県越前市・「長田製紙所」 長田和也
襖紙やインテリア装飾和装を製造している越前和紙の老舗「長田製紙所」の四代目社長であり、和紙職人。
手漉きの伝統的な技法を守りながら襖紙のデザイン・製造を行うほか、美術工芸紙の開発にも携わり、和紙を現代の生活に応用させるために日々技術を磨いている。

EPISODE 6

ミシュラン東京で一つ星を獲得している代官山のフレンチレストラン<abysse>のシェフ、目黒浩太郎は、岩手県にある南部鉄器の〈鈴木盛久工房〉へ。
江戸時代から、代々南部藩の御用を勤めてきた伝統と格式を保ちながらも、現在は日常に使いやすい鋳物を提案するこの工房。
長い時間をかけて培われてきた技術とそのものづくりの心に触れる。

岩手県盛岡市・「鈴木盛久工房」鈴木成朗
御用鋳物師として江戸時代に創業した「鈴木盛久工房」の家に生まれ、2022年には第十六代目を襲名予定の南部鉄器職人。
100以上もの制作工程を踏む、代々受け継がれた繊細な技術を継承しながら、世代を越えて使い続けられる鋳物づくりに心血を注いでいる。

EPISODE 7

鹿児島県のしょうぶ学園は、知的障害を持つ利用者たちが、自らの感性にまっすぐな創作活動に打ち込む1973年創設の知的障害者支援施設だ。
ここを訪れたのは、『宮本から君へ』など、映画を中心に数々の話題作に出演を続ける俳優の池松壮亮。
工芸や芸術、音楽に至るまで、自由で力強い様々な表現が次々と花開く現場で、彼が感じ取ったこととは。