大島渚 Nagisa Oshima

少年 Boy

秋風のたつ夕暮、無名地蔵のある広場で、ひとり“泣く”練習をしている少年がいた。
翌日、その少年の家族四人が街へ散歩に出た。やがて交差点に来ると、母親が一台の車をめがけて飛びだし、続いてチビを抱いた父親が間髪を入れず、駈けつけ、叫んだ、「車のナンバーはな……」。
傷夷軍人の父、義理の母と弟のチビ、少年の家族の仕事は、病院の診断をタテに示談金を脅しとる当り屋だった。
二回目の仕事が成功した時、父の腹づもりが決まった。
少年を当り屋にしての全国行脚がそれだった。
少年は、父母からかわるがわる説得され、家族とともに祖母の家を後にした。
一家が北九州に来た時、母が父に妊娠したことを告げた。
が、一家の生活は、彼女に子供を産ませるほどの余裕を与えなかった。

絞死刑 Death by Hanging

拘置所の片隅の死刑場で、絞縄を首にかけられ、踏板を落とされ、死刑囚Rは、何ら異状なく刑を執行されたのにもかかわらず死ななかった。
一本のロープにぶら下がったRは気を失ってはいたが、脈拍は正常に打ちつづけていたのだ。
立会人である検察官、所長をはじめとする拘置所職員は、この異常な事態に仰天し、再度、刑を執行しようとしたが、心神喪失状態にある者に刑を執行するのは法律で許されていなかった。
間もなく、死亡確認が仕事の医務官の手当てで、Rは目を開いた。
教誨師は、Rの魂は神に召されたのだから、処刑は不当であり、生き返ったRは犯罪を犯したRと同一人ではない、と激しく主張した。

御法度  Gohatto/Taboo

1865年(慶応元年)夏、京都。「局中法度」「軍中法度」という厳しい戒律によって鉄の結束を誇る新撰組に、剣の立つふたりの若者が入隊した。
ひとりは下級武士・田代彪蔵。
もうひとりは息を飲むような美貌の少年・加納惣三郎である。
入隊早々、惣三郎は総長の近藤勇から御法度を破った隊士の処刑を仰せつかり、みごとその大役を勤めてみせるが、副長の土方歳三は近藤の寵愛を受け未だ前髪を切ろうとしないこの若者に、何か釈然としないものを感じていた。
そんな中、妙な噂が組中に広まった。惣三郎と田代が衆道の契りを結んだというものだった。

儀式 The Ceremony

「テルミチシス」テルミチ」という奇妙な電報を受取った桜田満洲男は輝道のかつての恋人律子と共に急拠打電地の南の島へと旅立っていった。
その道行で、満洲男は過去桜田家で行なわれた数々の冠婚祭の儀式と、その時にだけ会うことのできる親戚の人々の事を想い起こしながら、この電報の意味を考え続けた。
昭和八年満洲事変の余波さめやらぬ頃、満洲で生まれた満洲男が、昭和二十二年、母親のキクと共に命からがら引き揚げて九州の桜田家にたどり着いた日は、満洲男の父韓一郎の一周忌の日だった。
韓一郎は敗戦の年、満洲から東京に渡ったが、日本の前途に絶望して自殺した。
その法事の席には、内務官僚であったために追放中の祖父の一臣、祖母のしづ、曽祖母の富子、祖父の兄嫁のちよ、ちよと一臣の間に生まれた守、父親の腹ちがいの弟の勇、もう一人の腹ちがいの弟進の子忠、叔母の節子とその子供の律子、しづが可愛がっている輝道などが列席した。

帰って来たヨッパライ A Sinner in Paradise

大学生活最後の休暇を楽しむため、大ノッポ、中ノッポ、チビの三人は日本海の海辺に行った。
暖い陽気に誘われて三人は、泳いだが、いつの間にか服がなくなり、代りに軍服と粗末な学生服があった。
三人はそのため、密航者と思われ、パトカーに追われる破目になった。
その途中、たまたま、魅力的なネエちゃんと知りあい、銭湯で服をすり換える、という知恵を授けられたが、見なれぬ青年と少年にピストルをつきつけられ、もとの服に戻されてしまった。
青年たちには、何か事情があるらしいが、三人には何が何だかさっぱり分らない。