青森県のせむし男 せむし男が赤い月を眺めてつぶやいた

もしも僕が自分のために何かしようと皆に声をかけようものなら たちまち皆は僕を追い出してしまう
例えば僕は 鬼ごっこの鬼だ
僕が追いかけると笑いながら皆は逃げてゆく
子供の頃 赤い夕焼けの路地を追いかけっこしていってそのまま一生追いかけっこの鬼で通した男 それが僕ですよ
疲れて一休みしようとすると
皆集まってきて「早く追ってくれ 早く追ってくれ」と唆す
そこで僕は 皆の逃げる楽しみのためにちんばの下駄をはき
鬼灯を口にくわえて 追っかけてゆく
十年なんかすぐにたってしまって 皆は大人になってしまって それでも まだ僕を鬼のままにしておく 僕は死ぬまで 鬼になってしまった男です
だけど一体 僕は誰を追いかけているんだろう
何を捕まえるために 30歳にもなって子供みたいに「鬼ごっこ」に熱中しているんだろう?
暮れやすい冬の日差しの中で 自分の影を追いかけ続けている、この味気ない役回り
おっかさんというものが
もしかして逃げていくみんなの中にまじっているのだとしたら 鬼ごっこはまだ続くことだろう