小津安二郎 yasujiro ozu

彼岸花 Equinox flower

大和商事会社の取締役平山渉と元海軍士官の三上周吉、それに同じ中学からの親友河合や堀江、菅井達は会えば懐旧の情を温めあう仲。
それぞれ成人してゆく子供達の噂話に花を咲かせる間柄でもある。
平山と三上には婚期の娘がいた。
平山の家族は妻の清子と長女節子、高校生の久子の四人。三上のところは一人娘の文子だけである。
その三上が河合の娘の結婚式や、馴染みの女将のいる料亭「若松」に姿を見せなかったのは文子が彼の意志に叛いて愛人の長沼と同棲していることが彼を暗い気持にしていたからだった。
その事情がわかると平山は三上のために部下の近藤と文子のいるバアを訪れた。
その結果文子が真剣に結婚生活を考えていることに安堵を感じた。
友人の娘になら理解を持つ平山も、自分の娘となると節子に突然結婚を申し出た青年谷口正彦に対しては別人のようだった。

東京物語 Tokyo Story

周吉、とみの老夫婦は住みなれた尾道から二十年振りに東京にやって来た。
途中大阪では三男の敬三に会えたし、東京では長男幸一の一家も長女志げの夫婦も歓待してくれて、熱海へ迄やって貰いながら、何か親身な温かさが欠けている事がやっぱりものたりなかった。
それと云うのも、医学博士の肩書まである幸一も志げの美容院も、思っていた程楽でなく、それぞれの生活を守ることで精一杯にならざるを得なかったからである。

晩春 Late Spring

曽宮周吉は大学教授をしながら鎌倉に娘の紀子と二人で住んでいた。
周吉は早くから妻を亡くし、その上戦争中に無理した娘の紀子が身体を害したため長い間父と娘は、どうしても離れられなかった。
そのために二七歳の年を今でも父につくし、父は娘の面倒を何にくれとなくみてやっていた。
周吉の実妹、田口まさも曽宮家に出入りして彼等の不自由な生活の一部に気をくばっていた。
このごろでは紀子も元気になり、同級生であり友達でもある北川アヤと行来していた。
アヤは一たん結婚したが、夫の悪どい仕打ちに会い今では出もどりという処。
また周吉の助手をしている服部昌一も近々結婚するという。

長屋紳士録 Record of a Tenement Gentleman

東京の焼け跡に復興の家がぼつぼつ建ちはじめ、昔なじみの顔もそろってきた。
数年前夫を失い続いて一子をも失ったおたねは、たった一人で昔通りの荒物屋を開いている。
ある日彼女の家の裏に住む占見登竜堂先生は一見戦災孤児のような少年幸平を拾ってきた。
しかし自分で育てる力のない登竜堂はそれをおたねに押しつけた。
おたねは内心甚だ迷惑に思ったが、別にどこへ行かすあてもないので仕方なく一夜だけ泊めてやる。

秋刀魚の味 an autumn afternoon

長男の幸一夫婦は共稼ぎながら団地に住んで無事に暮しているし、家には娘の路子と次男の和夫がいて、今のところ平山にはこれという不平も不満もない。
細君と死別して以来、今が一番幸せな時だといえるかもしれない。
わけても中学時代から仲のよかった河合や堀江と時折呑む酒の味は文字どおりに天の美禄だった。
その席でも二十四になる路子を嫁にやれと急がされるが、平山としてはまだ手放す気になれなかった。