大島渚 nagisa oshima

夏の妹 Dear Summer Sister

夏休みも近い日、素直子の許に一通の手紙が届いた。
大村鶴男という沖縄の青年からで、彼の父は、彼が小さい時死んだものだと思っていたが、最近、母から素直子の父菊地浩佑が鶴男の父らしいと知らされたというのである。
そして夏休みには沖縄へ遊びに来てほしい、と結んであった。
夏休みが来た。素直子は彼女のピアノの家庭教師で父が再婚しようとしている若い女性、小藤田桃子に鶴男のことを打ちあけ、鶴男を探しに二人で沖縄へ旅立つ。
姉妹のように仲むつまじい女同志の船旅。船中で二人は、桜田拓三という老人と知り合った。

悦楽 The Pleasures of the Flesh

三流の広告会社で働く安サラリーマン脇坂篤のところに、ある日篤がかつて家庭教師をしていたころの教え子稲葉匠子から結婚招待状が送られてきた。
篤はいつの日からか、匠子を密かに愛し続けてきたのだ、そしてそれ故に、匠子には知らせず、彼女がまだ小字生のころ暴行を働き、未だに匠子を脅迫し続けている青年を汽車のデッキから突落し殺してしまったのだ--。
そして今、篤が得たものは、この一通の招待状であった。
その夜酔って帰った篤は、以前、篤の犯行を目撃したという汚職官吏速水が、彼が出所するまでを条件に、篤に無理矢理に預けていった三千万円入りのトランクを開けた。
速水が横領した金九千八百万円の一部であった。

愛の亡霊 L’Empire de la passion

一八九五(明治二十八)年、北関東のある村に人力車夫の儀三郎と妻のせきが住んでいた。
二人には奉公に出している娘のおしんと乳呑児の伊七という二人の子供がいる。
せきは四十を過ぎているのに、三十そこそこにしか見えない。
そのせきのところに、儀三郎の留守を狙って兵隊帰りの豊次が足繁く顔を見せるようになった。
ある日、伊七に乳をふくませ、まどろんでいるせきの上に豊次が覆いかぶさった。
初めは抵抗したせきも、豊次の強引さに敗けてしまう。
それから二人は情事を重ね、せきは豊次が自分より二十六歳も若いということを忘れて、愛を受け入れた。
せきを自分のものにしたい豊次は、そのあかしとして彼女に陰毛を剃らせると、夫のもとに戻れなくなったせきに、「殺しちゃうんだよ」と言うのであった。

愛のコリーダ L’Empire Des Sens

昭和11年2月1日、東京は中野の料亭「吉田屋」に、30過ぎの女が、女中として住み込んだ。
名は阿部定と言ったが、店では、加代と名付けられた。定は神田で繁昌している畳屋の末娘だったが、15歳の時に大学生に犯されて以来、不良となり、18歳で芸者に出され、以後娼妓、私娼、妾などの生活を転々としてきたのだった。
しかし、最近彼女のパトロンになった名古屋の商業高校の校長は、定が浮草のような生活を止めて、真面目になるなら小料理屋を出してくれることになり、修業のために定は女中奉公に出たのだった。
だが、定は吉田屋の主人吉蔵に一目惚れしてしまった。
吉蔵も、水商売の歳月を重ねてきた定の小粋な姿に惹きつけられた。

愛と希望の街 Street of Love and Hope

靴みがきの女たちにまじって、一人の少年が一つがいの鳩を売っていた。
精密器械会社重役久原の娘で高校二年の京子が通りかかり、弟の病気見舞いにと鳩を買った。
少年は正夫といい中学三年生、靴みがきの母と知的障害の妹との三人暮しという家庭だ。
売った鳩は妹のマスコットでもあった。
鳩には飼い馴らされた巣に戻って来るという習性があり、今までにも数回買主から戻って来ていた。
これを利用して同じ鳩を売っていたのだ。数日後、京子が飼っていた鳩も一羽が逃げ出して正夫の鳩小屋に戻って来た。
が、その鳩は途中で負った傷が原因で死んだ。