青森県のせむし男 さあさあ、お立ち合い!

天井桟敷 紙上呼び込み
さあ、さあ、お立合い!
これからお目にかけますルは、悲しい男の物語
親の因果がこの報い
という口上では始まる見世物は、私の少年時代のあこがれの的であった
七草のころ、天幕小屋の中で綿飴をしゃぶりながら胸躍らせて見上げた舞台には、まさにシアトリカルな意味での劇的な世界があったものだ。だが、現代の舞台術からそのような「血沸き肉躍る」幻想の世界が姿を消して、久しい日がたった。
私は何とかして、あの少年時代の幻想と現代人の失った夢とを結び付けて、新しいドラマを作りたいと思い、仲間をあつめて「天井桟敷」を作ったのである。
怪優奇優侏儒巨人美女募集という小さな広告をきっかけに、あちらこちらから新しい仲間が集まってきた。
私は4月6月8月と隔月で新しい台本を書くことを決め、見世物雑志や奇異珍事禄などの文献をあさった。
まさに今日的な問題を扱うための方法として選んだのである。
4月は少女浪曲師を中心に侏儒、大男を登場させて「青森県背むし男」をやることに決めた。
6月は「大山デブコの犯罪」である。
ねずみ、ふくろうなどの鳥獣諸芸も登場する。
さあ、さあ、入るなら今すぐだ。
お代は見てのお帰りだよ、と言いたいところだが、お代は先にいただく。
地獄めぐりのお好きな皆さん。
そして詩のない観念劇にくたびれた皆さん、お入り、お入り!
劇団員募集中だよ!

青森県のせむし男 寺山修司 天井桟敷