RROSEMARY ローズマリー
「モッズヘア」田村哲也氏がホストとなって、エッジのきいたクリエイターと繰り広げる対談企画
カメラマン「Rrosemary」誕生秘話
田村哲也:同時代に仕事していて、いいなと思うヘアメイクは佐藤冨太というクレジットがついていて、嫉妬を感じるほど尊敬する一人だったんだけど、写真始めて、もうどのくらいになります?Rrosemary::いやー、ありがとうございます。こちらこそ刺激をいっぱい頂いています。写真は10年くらいですかね。きっかけは、永澤(陽一)さんのところで「僕の服、撮ってくれない、ギャラないけど」って言われて撮ったのが最初(笑)。
田村:でも趣味ではずいぶん、撮ってたんでしょ。
Rrose:ブツ(静物写真)ばかりでしたけど、作品撮ったりしてました。暗いところで10秒、レンズを開放にして風景を入れて撮ったり。それをたまたま永澤さんが見てくれて、「撮らない?」ってなったんです。永澤さん、定期的にパリとか行ってたから、モデルは向こうのほうがいいだろって。
田村:最初の仕事がパリ・ロケになったわけだ。
Rrose:ええ、その上、それまで人間撮ったことなかったから緊張しましたよ。知人のアパートを借りて、そこで3時間くらいかな、撮影させてもらいました。
田村:それが初めて仕事で写真を撮った瞬間だ。
Rrose:ギャラがなかったから、仕事じゃないですけど(笑)。でもすごくいいモデルをキャスティングしてもらえて。撮った写真が本に掲載されたので、仕事と言えば仕事かな(笑)。
田村:それがなければ、写真は趣味だった?
Rrose:そう。今もきっとそうですね。
田村:ちなみに「ローズマリー」という名前もそのときついたの?Rrose:いや、そのときは違います。
田村:「ローズマリー」って女性名だけど、どうして?
Rrose:それは。駄洒落みたいなもんですけど、マルセル・デュシャンがローズ・セラヴィという別名で女装して、それをマン・レイが撮った、いろいろ遊んでる作品があったんです。で、そのローズ・セラヴィをマン・レイが撮ってるから語呂合わせして「ローズ・マン・レイ」になり、さらに「ローズマリー」のほうが語呂いいな、みたいな感じで決まりました(笑)。
僕、変に写真チックなこだわりがないんですね。
田村:そんなディープなストーリーがあったんだ(笑)。じゃあ、、カメラマンとしてのローズマリーは、ヘアメイクの佐藤冨太とは違う人格なのかな?
Rrose:そうですね。Rrosemaryは、あまり人格がないくらいがいいですね。やっぱり、名前を漢字で書くと存在して強いじゃないですか。そこまで写真に責任持てないなっていうのもあるし(笑)。
田村:はぁ?ということは?
Rrose:例えば、アナログで写真を撮ったら仕上げはアナログじゃなきゃいけないっていう、悪い意味で写真家チックなこだわりがないというか。仕上げはコピーでもいいし、なんでもいいと思うんです。とにかく、写真が美しく楽しめればいいかなって。
田村:だから、割りとこう、写真を撮るときは本気なんだろうけど、つまらない悲壮感がないんだ。
Rrose:そうですね、結果的にはプレッシャーとかあるし、決して気楽じゃないんですけど、変なこだわりはないほうがいいかなって。だからさっきの話じゃないけど、写真が荒れてたりとか、完成度っていう方向性が、いわゆる写真家とは違った道を選びたいって思う気持ちは強いかもしれません。
自分のクリエイションがOKであるという、その条件
田村:では、ローズマリーの仕事として自分でOK出す、条件ってある?
Rrose:いやー、難しいですね。でも、もし、OKというなら、いろんな見方が出るものだと思うんですね。これ撮ったから、それで終わりっていうんじゃなく。撮影のコンセプトを自分がいろいろ考えた分だけ、仕上げに響くような感じがいいなと思います。それで、今日ちょっと持ってきたんですけど。
田村:えっ、なになに?!
Rrose:雑誌「ポパイ」で「コム・デ・ギャルソン」のクリスマスギフトアイテムを撮るという企画。しかもそれをストーリー仕立てで、というのをやらせてもらったんです。
田村:何ページでストーリーを展開するの?
Rrosr:6ページですね。作品のストーリーは人間が宇宙に何かを求めていくところから始まる。宇宙人って怖いとかいろいろイメージあるじゃないですか。でも、ストーリーが進むと、宇宙人は顔は怖いけど、実はやさしい人だったってなって、むしろ人間のほうが悪魔なんじゃないの?で終わるような話。
田村:へえ、面白いね。自分でそういう世界観を考えて、また自分でカタチにするということだよね。自分で脚本書いて監督するような、そういう仕事の仕方が理想的な形?
Rrose:まあ、ある意味、楽しい仕事のひとつだなあって。なかなかないですけど。
田村:でも、こういう仕事だと、一人な分、ジャッジするのも一人なわけで本当、きりがないでしょ。
Rrose:そういったら、そうですね。もっと時間がとか。あと、複数の写真が、ストーリーを構成しているかどうかって不安はありますよね。かといって、全部、繋がっていればいいってことでもないんだけど。一人だと、その辺のジャッジがすごく厳しいところです。
ヘアスタイルを撮る美容師さん達に
ヘアスタイルを撮っている美容師さん達が増えています。そういう人たちに何かアドバイスは?
Rrose:う~ん、あんまりないですね。…いや、というのは、ヘアスタイルがきれいに見えるライティングとかは、何度も試せば誰でもできると思うんです。ただ、写真を撮るときの世界観は、そのひとのもの。その人がそのヘアをどういうストーリーで見せるかだから。そこを人に言われてやったら、自分で撮る意味ないじゃないですか。だからそこは自分が考えるしかないと思うんです。
田村:確かにね。
Rrose:ええ。で、話がちょっと違うかもしれないんですけど、あるヘアメイクさんがいたんですけど、すごく面白いデザインを作るんですよね。おもしろいっていうのは、その頭、どうやったらそんなウェーブ出るんだろうとか、なんでサイドがそんなにボコッとしているんだろうとか、すごい印象に残って、好きだった。
田村:うんうん、彼ね。僕も知ってる。つくるものがすごくナチュラルでかっこよかった。
Rrose:それで、何年か前に撮影の合間に彼のアシスタントをしていた人と話すことがあって、「彼のヘアデザインって面白いよね」って言ったら、その元アシスタントが「知ってます?実は、ヘア、何もやっていないですよ」っていうんです。
田村:えっ、何もやっていない?!
Rrose:もう全く手をいれていないんですって。だから、朝起きてきたモデルの寝ぐせをそのまま「出来ました」って出しちゃう。ゴムで縛っていたらそのくせがついたままで。
田村:すごいね、その話(笑)。
Rrose:そう。でも、そういう発想が自分にはないから、それを聞いたらなおさら、すごいなって。
田村:絶対、手は入れたくなっちゃうもんだよね。
Rrose:それが自分のヘアスタイルって、意気込んで写真撮ると、例えば前髪こうなってないとダメとか、ディテールばかりに走っちゃう。そういうのじゃない作品が撮りたいというか。例えば、もっと女っていうか、モデルとしての乱反射っていうか、ちょっとしたクセとか、匂いとかも映りそうな、そういう写真がいいなって思うんです。
田村:なるほどね。ついつい形の面白さばかりを追いかけて、その髪がついている女性のことを忘れちゃう人も多いからね。それが分かるって、美容師より写真家の眼で見れるっていうことだね。
Rrose:その人という人格から離れてつくった素敵なヘアスタイルじゃなくて、その人を出してくるヘアスタイル。それはつよいなってね。そして、そういうのがいいなって憧れますね。「脳が強くないといけない」ってやっぱり思うんですよ。 そういうクリエイションを生むのに必要なことは何かありますか?
田村:一言で言うとバランス感覚なんだよね。あんまり飛び抜けても、なかなか時代に受け入れらない。だけど、頼んできたプロの人にも、そしてそれを見る一般の人にもある程度刺激を与えたいってこともある。
Rrose:その辺を写真でやるのは難しいですよね。でも、そういう道を選びたいと思うんです。そのためにはやっぱり元気じゃなきゃ何もできないっていうか。疲れているとダメですね。というか、「脳が強くないとダメ」かなって思うんですよ。
田村:それって、タフだってこと?
Rrose:そうですね。特に西洋人って、基本的にタフだと思うんですよ。ギブアップっていう位置が違うというか。
田村:そう。僕も最初、向こうに行っておもったもん、肉食人種には勝てないなって。絶対に諦めないし。
Rrose:諦めないし、悪いことを忘れるいい習慣を持ってます(笑)。嫌なことをスッと忘れて次に行ける。ネチネチ引っ張ると自分がダメになっちゃうじゃないですか。だから、仮にひとつのことで相当もめたとしても、その後、パッと忘れて、仕事にまい進している。そこが、やっぱタフだなって。
田村:でも、自分で写真を撮っているときも、そうやって「まだまだ」っていう心の声があるわけでしょ。
Rrose:いや、案外、「もういいんじゃない」って悪魔が、そして僕が「そろそろ終わるよ」って(笑)。でも、正直、そうやってタフに粘りたいって気持ちは、いつも大切にしたいですね。