アイビーはヤング・ファッションの合言葉

初めて若者達自身によって生み出された男性ファッション、それが「アイビー」。大人のマネじゃない、芸能人が着てるからって着るんじゃない。学生を中心として巻き起こったこの流行、それは単にコッパンにアイビーカットといった格好だけじゃなく、若者文化をも生んだ。

’60年代の最もエポックメーキングなファッションの流行といえばアイビーブーム。
このブームの一つのキッカケとなったのが、みゆき族の出現。
’64年春ごろだから、まさにビートルズ出現前夜のちょっとした風俗異変だった。
カミナリ族、太陽族といった戦後の昭和の族化ブームがそうであったように、このみゆき族もマスコミが名付け親(一説ではA新聞社の記者の命名とか?)。


過去の族化現象は都会からの逃避であり、社会への反発や抵抗によって生まれたものといえるが、どちらかといえば、このみゆき族はそうしたアウトロー的なイメージは薄れ、むしろ非常にファッション的要素を全面に現した街角の族化現象だったといえる。
大学生を中心とした、ちょっと風変り(今となっては別段驚くこともない典型的なカジュアル・スタイルなのだが)なファッションの連中が、週末などに銀座みゆき通り周辺に集まりたむろするだけという、この他愛ない現象のリーダーシップを取ったのは、他でもない御存知ヴァンジャケット。
足の先っちょから頭のてっぺんまで、様々なアイテムを発売。
その後JUNやACEといった三文字ブランドブームを生むキッカケを作ったといえる。
当時のみゆき族、つまり、アイビー第一世代のステイタスを挙げてみよう。
誰もが小脇に抱えたVANの紙。
そして、ステッカー(ステッカーという言葉はこの頃市民権を得た)。
大橋歩のイラストが表紙を飾った、創刊間もない平凡パンチやF6セブン(当時ヌード写真が掲載されているという理由で購読を禁じた高校が予想以上に多かった)。
そしてメンズクラブ (60年代初頭よりアイビー特集をはじめた。 ポパイ出現までの典型的中産階級おぼっちやまのファッション・テキスト誌)。
整髪料バイタリスやMG5(初代キャラクターモデルは犬と一緒に登場し村田英雄。
あの演歌の先生とは別人!!)とコンパクトドライヤー。
極端に短くカットした尾錠付きのコットンパンツ(コッパンという言葉もこの頃から使われだした)とライン入りのホワイトソックス。
バティックプリント、マドラスチェック、 少し遅れてストライプ(ビーチボーイズ風の)ボタンダウンシャツ。
同じ柄物の3つボタン、ショルダーバット無しのセンターベント・ジャケット。
コインローファーとスニーカー(運動靴からスニーカーへ。
銀座の某ショップではVAN製品が1日に400足売れたとか)。
幅約4センチの黒のニットタイ。
柄物の布製ベルト (ジャケットやシャツと同柄が人気だった)。
またアルミ製のコーム。
バイタリスのベタベタをちり紙(ポケットティッシュは無かった)で拭き取り、後ポケットに差すのが密かに流行った。


つまり、この時代の流行の多くが現在のカジュアル指向の基礎を築いたといえるだろう。
’60年代のアイビーブームのキーワードは ”短い”であったといえるだろう。
スラックスが極端に短くなって(当時の新聞記事に、モノが豊かになった時代なのに、なぜ若者はわざわざ、つんつるてんのズボンをはくのかというコピーが載っていた)、アイビーカットという名の、極端にもみあげを短くカットした、全体的に短めの七三分けが大流行したことがその最たる証である。
また、モダンフォークソングの流行とこのブームは密接な関係にあった。
学園という、ちょっと野暮ったい呼び名がキャンパス、カレッジと変わったように、アメリカナイズされたイメージを学生層が求め始める一つのキッカケになったのが、キングストントリオをはじめとするアイビースタイルのグループだったのだ。
フォークブームはアイビーと反戦と自由という三つの言葉を日本中にもたらしたといえる。
いわゆるフォークギターが売れに売れたのもこの時期で、ギターケースにVAN等のステッカーを貼り、街を歩くことがナウイ若者の必修条件だったのである(ブランド指向の芽ばえはこの時期と推測する文化人も多い)。
この他の当時の流行現象といえるのが、クルマではスカイラインGT(通称スカG。駒沢公園へドライブするのがかっこよかった)。
デートは六本木のピザハウス、ニコラスやハンバーガーイン。
まだタバスコは貴重品。
辛いことを知らずに大量にかけ、口から火を吐いたカップルもいたとか。
ゴミ箱に穴あきダッコちゃんやフラフープが無用の長物として捨てられ、東京オリンピックの記念メダルがあふれかえり、酔っぱらうとクレイジーキャッツのC調メロディが口をつく…。
そんな様々な流行も、エレキブーム、ビートルズの出現、スパイ映画ブームと益々キャパシティを巨大化し、やがて訪れる70年代へと流れていく。
そうした中、同時に60年代のアイビーも少しづつ変容し、現在へと引き継がれていった。