ルイス・ブニュエル Luis Bunuel

乱暴者(1952) EL BRUTO

肉屋で働くペドロは、大柄な体躯と腕っぷしの強さを誇って、地主カブレラの用心棒をしていた。ある日、団結して抵抗する小作人たちを訝しく思っていたカブレラは、ペドロに命じてその代表の男を殺させる。
自らも傷を負ってペドロは復讐しようとする小作人たちの網をかいくぐり、殺した代表の娘メチェを人質にとって逃走した。
ペドロが父の仇とは知らぬメチェは地主に搾取されてきた小作人の苦しい事情を話すと、ペドロは何も考えずに強い者の味方をしてきたことを後悔し、心を改める。

エル(1952) EL

フランシスコは、敬虔なカトリック信者で、四十過ぎても童貞のままメキシコ市の広大な邸宅に独りで暮らしていたが、ある日教会で素晴らしい足の持ち主、グロリアに一目惚れしてしまう。
婚約者、ラウルがいた彼女だが、彼の強引な求愛に負け、二人は結婚する。
その後街でグロリアと会ったラウルは、夫の凄まじい嫉妬ぶりについて聞かされる。
新婚旅行へ出掛けた夜の列車の中で、早くも彼の嫉妬が始まり、ホテルでは彼女の友人に殴りかかる。
生活が続くうちにたまらなくなった彼女は母に相談するが相手にされない。
彼の嫉妬心は募り、彼女と訴訟のために雇った弁護士との仲を疑った上、暴力も振い、空のピストルで脅したり、寝ている彼女にロープやハサミを使って拷問を加えようとしたり、大聖堂の塔から突き落とそうとしたりする。

嵐が丘(1953) ABISMOS DE PASSION/CUMBRES BORRASCOSAS

事業に成功したアレハンドロは、かつて養子として育てられた家に帰って来る。
彼は家の娘カタリナを愛していたが、育ての親の死後、彼女の兄リカルドに馬小屋の番人にさせられ、カタリナは名家の子息エドゥアルドと結婚したため絶望して家を出ていたのだ。
カタリナは夫に、アレハンドロを今でも愛していると告げ、彼の許へ走る。
しかし彼の帰還の目的は、愛する者との仲を裂いた人間に復讐するためであった。

幻影は市電に乗って旅をする(1953) LA ILUSION VIAJA EN TRAVIA

メキシコシティの市電133号は廃車寸前のポンコツだった。
交通局は解体を決定、同号担当のハンサムな車掌カイレレスと修理工タラハスも共にお役御免となってしまう。
その日は職場のパーティ。
惜別の酒をたらふく飲んだ二人は、いつのまにか車庫に赴き、酔った勢いで133号で夜の町に繰り出してしまう……。

ロビンソン漂流記(1954) THE ADVENTURES OF ROBINSON CRUSOE

一六五九年、アフリカからブラジルへ向う途中、ロビンソン・クルーソーの乗り組んだ船は、一晩中すさまじい風雨にもまれ、ついに難破してしまった。
やっとの思いで見知らぬ島にたどり着いたロビソンは、薄気味の悪いジャングルで一夜を明かした。
翌朝自分の船が座礁しているのを見つけたロビンソンは、猫以外一人の生存者もいない船中から、食料や武器を運び込み、浜の近くの岩場に適当な住み家を作った。
運びこんだ財産を倉庫に貯蔵している途中、ロビンソン達が船の中で可愛がっていた“レックス”という犬が木陰から突然現われ、ロビンソンをすっかり喜ばせた。
年月は矢のように流れていった。
レックスと猫を唯一の友として毎日を送っているロビンソンはひしひしと押し寄せる孤独惑に気も狂わんばかりであった。

河と死(1954) EL RIO Y LA MUERTE

灼熱のメキシコの小さな町、サンタ・ビビアナは平和そのものの見かけと裏腹に、死が支配する血なまぐさい町だった。
というのも、昔はほんの些細なことからアンギアノ家とメンチャカ家の家長同士の殺し合いが始まり、それ以降、名誉のための無意味な争いが繰り返されているためだった。
殺した者は町に住むことを許されず、川を泳いで渡り対岸の山に潜むことが掟となっていた。都会の病院にいたアンギアノ家の若い医師フェリペのところへ、メンチャカ家のロムロがやってきて決闘を申し込む。
ロムロの父はヘラルドの父フェリペに殺され、ロムロにとってヘラルドは父の仇の息子なのだ。
フェリペがロムロの父を殺したのも、彼が従兄弟の仇であったからで、そのフェリペも争いに巻き込まれ故人となってしまった。

アルチバルド・デラクルスの犯罪的人生(1955) ENSAYO DE UN CRIMEN

メキシコの革命のさなか、ブルジョア家庭の幼い息子アルチバルドは、思う相手を殺す魔力があるというオルゴールに、美しい家庭教師の死を願った。
とたんに彼女は市街戦の流れ弾に首を撃ち抜かれ、彼の目の前で死んだ。
大人になったアルチバルドは病院でこの話をして、彼女は私が殺したという。
怪訝な顔をする看護婦の尼僧に、アルチバルドは神を信じているなら死も至福だろうと言って剃刀を向ける。
怯えた彼女は病室を走り出て、故障中のエレベーターの入口から転落して死ぬ。

それを暁と呼ぶ(1956) CELA S’APPELLE L’AURORE

地中海の孤島で、島の企業の雇われ医師として働くヴァレリオ(ジョルジュ・マルシャル)。
島の生活に飽きた彼の妻はニースでの暮らしを夫にせがみ、静養のため一人親の元へ旅立ちます。
ある日、ヴァレリオは往診先で若き未亡人クララ(ルチア・ボゼ )と出逢います。運命的な出逢いに二人は恋に落ち、人目を忍んで逢瀬を繰り返します。

この庭に死す(1956) LA MORT EN CE JARDIN

山師のシャークは金の採鉱者たちが集まるキャンプ近くの村にやってくるが、地元の警察に拘束されてしまう。
彼が近隣で起きた銀行強盗に絡んでいるというのだ。
しかも、今度は警察が金鉱を州のために没収してしまったので、採鉱者たちが暴動を起こすが、それも平定されてしまう。
その頃、暴動に参加したという無実の罪を着せられたカスタンは、耳の聞こえない娘と、娼婦のジンを連れて逃亡の計画を立てていた。
密かに船に乗り込んだカスタンたちだが、そこへ留置所から逃げて来たシャークが船を乗っ取ってしまう。
付き添ってきたリザルディ神父ともども追われる身となった5人は、ジャングルに逃げ込むが、それは彼らの命がけのサバイバルの始まりだった。

ナサリン(1958) NAZARIN

スペインのバルザックと呼ばれた、19世紀の作家ぺレス・ガルドスの小説を映画化した、辛辣で真摯な聖職者をめぐるブニュエル流反?信仰告白。
主人公の神父ナサリンは窓から誰でも出入りできる安アパートの二階に住み、貧しい者から施しを受けることを懐疑し、その金を盗まれても平然としている善良すぎる男。
その彼の元に殺人を犯した娼婦アンダラがかくまって欲しいと飛び込んでくる。
傷を負った彼女を優しく手当てして、迷信と信仰の違いを教えて聞かせる彼に、しかし、アンダラは手痛いしっぺ返し。
証拠隠滅にアパートに火を放って逃げたのだ。