ルイス・ブニュエル Luis Bunuel
アンダルシアの犬(1928) UN CHIEN ANDALOU
今みても感嘆する他にないシュールレアリズムの映像詩。
L・ブニュエルの凄い所はこのイマジネイティヴな実験精神を失わず、メキシコ時代の通俗作品、後期の“アンチ”カトリシズムの不条理劇と、果敢な映画的創造を貫いたことだ。
ダリが共同脚本を手がけた本作は全く論理的脈略はなく、あまりにも有名な、眼球を剃刀で真二つにされる女、路上に切り落とされた手首をみつめる女装の男、痙攣する掌を這い回る蟻の群れなど、夢魔的イメージが全篇を支配している。
黄金時代(1930) L’AGE D’OR
「アンダルシアの犬」と同じく、ブニュエルが画家ダリと組んで脚本を書き、演出した前衛映画。
パトロン、ド・ノアーコ侯の援助一万フランから自由に作られた、シュールレアリズムの悪夢。
糧なき土地(1932) LAS HURDES
文明が美しく発展したヨーロッパの都市の、わずか100キロわきに、原始のままの生存闘争を刻々つづけ、残酷な日々を生きる人々の村がある。
栄養失調のため不自由な身体の人々、ただ死を待つのみの人々と、直視しえない光景。
死と背中あわせの日常。
そこで聖者に救いを求める人々、だが、その人々こそ聖者のようだ。
グラン・カジノ(1946) EN EL VIEJO TAMPICO
ブタ箱から逃げ出したものの職にあぶれているヘラルドとデメトリオの二人組はグラン・カジノで知り合ったエリベルトと意気投合、彼の口利きでエンリケの経営する油井で働くことになった。
ところが油井の横取りを企む土地のヤクザ、ラヤド一家のボス、ファビオに脅迫されていた。エンリケはファビオの持ち物であるカジノで謎の失踪、そこへエンリケの妹で歌手のメルセデスがアルゼンチンからやってきた。
ヘラルドは彼女に事件の経過を話すと、危険だから国に帰るよう勧めるが、どうやら彼女はヘラルドが兄の失踪に関係があると疑ったらしく、その謎を探ろうと単身歌手としてカジノに潜入する。
そんな中、今度はデメトリオが失踪を遂げた。
のんき大将(1949) EL GRAN GALAVERA
妻に先立たれて以来酒浸りの日々を送るラミロを何とか立ち直らせようと親戚たちは二日酔いの彼をボロアパートにかつぎ込み、自分たちも貧相なふりをして、目覚めたラミロに、彼が2年間も正気を失なっている間に一家は破産、家も取り上げられたのだと嘘の宣告をしてショック療法を試みた。
ところが薬が利きすぎたラミロはひどい落ち込みよう、あげくの果てに自殺しようとする。
それを止めたのが同じアパートに住む青年、パブロ。
忘れられた人々(1950) LOS OLVIDADOS
メキシコの大都会の裏には、悲惨な生活を送る貧しい人々の集落があった。
そこの子供たちは悪に染まって行くばかりで、手のつけられぬ存在であった。
その頃、かれらの首領格ハイボは感化院を脱走して、再び不良仲間の前に姿をあらわした。
ハイボは自分が感化院へ送られたのはジュリアンの密告だと知って、ひそかに復讐を誓った。ハイボらは、市場へ出かけ、そこにいる盲目の音楽師を襲おうとした。
彼は自分の体に笛、太鼓、ギターをくくりつけ弾きながら歌って金を乞う哀れな老人であった。
ハイボらは彼の銭入れを狙って失敗し、その夕方、彼を待伏せて惨々な目にあわせた。
スサーナ(1950) SUSANA
嵐の中、刑務所の柵を破って脱走したスサーナは、信仰深い大農場を経営する一家に助けられる。
居候として住みついたスサーナは、家長グアダルーペやその息子アルベルトらを自分の魅力を振りまいて、次々に誘惑していく。
使用人のヘススは、ある日通りすがりの警官から脱走した女囚の話を聞き、それがスサーナであると直感して、それを口実に彼女に近づこうとする。
色仕掛けの罠にはまった家長を唆かして妻カルメンを離縁させ、その後釜に坐ろうと画策しているスサーナは、相手にしない。
じっと耐えていた妻はついに、夫との仲を嫉妬し、激情に駆られてスサーナを痛めつけ始める。
昇天峠(1951) SUBIDA AL CIELO
メキシコ、ゲレーロ州海岸地方のある村。三男坊オリヴェリオの結婚式の当日、突然病床の母親の容体が悪くなる。
欲深い兄達は、息のあるうちに自分たちに都合のよい遺言状を作ろうと必死で、財産の中でも価値の高いメキシコシティの家を狙っている。
しかし母親は孫である死んだ娘の子供にその家を譲りたいと思い、一番信頼できるオリヴェリオに法的効力のある遺言状を作って欲しいと頼む。
オリヴェリオは代埋人のいる隣町まで、おんぼろバスに乗って出発する。
バスに乗ると、いろいろな珍事が続出、霧が発生するし妊婦は産気づき、峠の一本道なのに滅多に来ない対向車が来る。
愛なき女(1951) UNA MUJER SIN AMOR
古美術商を営む資産家夫婦の仲は冷めきっていた。
というのも妻ロサリオには、25年前に長男カルロスが子供のころ家出をし、山でさまよってるところを助けたフリオと恋に落ち、失敗した経験があったからである。
月日が経ち、成人した次男のカルリートスに突如莫大な遺産が転がり込む。
贈り主は、一度は成就しかけたロサリオとの愛を諦めて国を離れたフリオだった。
その金でカルリートスは豪華な結婚式を挙げるが、式の最中に父のドン・カルロスは急死する。
医師であるカルロスは、研究のための資金が欲しかったばかりでなく、弟の新妻は彼が想いを寄せていた女性であったことから弟を敵視し始める。
彼は母が隠していた写真から彼女の不義を知り、弟の出産に疑惑を抱くようになる。
やけになったカルロスは熱帯行きを決意するが、弟と口論するうちにあやうく殺し合いの喧嘩になりかける。
賭博師の娘(1951) LA HIJA DEL ENGANO
妻子と3人で暮らすドン・キンティンは貧乏なセールスマン。
ある日、彼は妻マリアと友人の浮気現場に出くわし、怒ってマリアを家から叩き出すが、彼女は去り際に、娘マルタはキンティンの子ではないと言い残した。
仕事も失敗が続き、途方に暮れたキンティンは、娘を郊外の家に捨てた。
20年後、キンティンはキャバレーの主人となっていた。
マルタも美しく成長し、パコという青年と恋に落ちる。
キンティンは牧師のはからいでマリアの臨終に立ち会った際、マルタが本当の娘であったことを教えられ、マルタを捜し出そうと懸命になる。
しかし彼女は酒乱の養父レンチョに反抗してパコと駆け落ちしてしまい、行方が知れなくなっていた。
キンティンは手下を使ってマルタとパコを自分のキャバレーにおびき出すことに成功するが、パコは以前、キンティンと大喧嘩した男だった。