an・an 80年代 彼女たちはなぜ髪を切ったか?

あなたにとって、一番春を感じさせてくれるものは何ですか。
街を行く女の子を包むパステルカラー、かれんな花をつける小さな植物たち、いろいろありますね。
でも何といっても最も春らしさを感じさせてくれるのは、風の優しさです。
かすかに花の香りのまじった、私たちの心を楽しくしてくれる風の優しさなのです。
あなたは、うなじを通りすぎる暖かい春の風を感じたことがありますか?
髪におおわれてその風を感じたことがないならば、きっとあなたは春の楽しさの何分の一かを損しているかもしれません。
春って心からウキウキして活動的になりたい季節、頭を軽くしたいという気分は誰しも感じるはずです。
それに、この春流行しそうなのはショートスカートや七分袖のワンピース、ショートヘアにして頭を小さく見せた方が絶対に似合う洋服たちなのです。
髪を切るというほんの小さな決心が、おしゃれする喜びと春の楽しさを、もっともっと感じさせてくれるかもしれないのです。
ここでは読者の田中節子さんに登場していただいて、実際に髪を切り、そしてファッションがどうかわっていったのかを完全誌上ドキュメントしてみました。

初めはちょっぴり不安、でも出来上がったら軽くて気持ちまでうれしくなった。

春らしい暖かな風の吹いているある日曜日、田中さんは明るい陽ざしのさし込む、原宿のラフォーレビルの中にある「モッズヘア」へやってきました。
彼女の髪をカットしてくれるモッズヘアの野口さんと髪型の本を見ながらの相談です。
野口 こんにちは。さっそくだけど、田中さんはどうして切りたいと思ったの。
田中 今までずっとこんなオオカミヘアにしていたんです。
でも春になっておおいかぶさってくる毛がうっとうしいなって感じたの。
それで少し軽いヘアにしようと思ったんです。
それにこんなニュートラのかっこうもあきてきたし。
学校を卒業してからは、ずっと髪を長くしていたという田中さん、ぎゅっと結んだこぶしが緊張した心の中を表わしています。
野口 そうですね。
流行のショ-トスカートなんかには、その髪では少し重すぎるね。
思い切って短くした方がいいかもしれない。
ショートでもいろいろあるけど、このバン·ドゥーシュというヘアが卵形であごの線のきれいな田中さんには、きっとピッタリだと思うよ。
田中 ウーン,こんなに顔が出るのは私に合うかな不安だわ。
野口 イヤ、絶対に合うよ。
それではやってみましょうか。
田中 お願いします。
モッズヘアではカットの前に徹底的に話し合います。
田中さん、鏡の前に座っても、やはりちょっと不安そう。
野口 とても柔らかい毛だね。
あなたは衿足も額もきれいだし、きっとさっき見た写真のようになるよ。
安心しなさい。
田中 ハイ。

髪を切ったら、笑い顔がとても明るい感じになった。
髪を洗って、ブラッシングをしてから、いよいよ髪にはさみを入れます。

野口 まだ固くなってるね。
ほら、こんなに肩に力が入っている。
ちょっと深呼吸してごらん。
田中 ハイ。でも何か不安、切るのやめようかしら。
野口 大丈夫。
きっと似合うから僕にまかせなさい。
うしろの髪からカットしていきます。
最初はとても心配そうにしていた田中さん、一度はさみを入れられてからは、落着いてきたようです。
野口 やっとリラックスしてくれたようだね。
田中 エエ。
野口 うしろの髪がおわったから今度はサイドを切ってみよう。
田中 今までずっと耳を出したことがなかったんです。
やはり耳の下の毛は何センチか残しておこうかしら。
野口 横の毛を残しちゃったら切る意味がないよ。
カットした方が絶対いい結果になる。
田中 ウーン、やはりそうですね。
きっと中途半ばな長さだとよけい似合わないかもね。
やはり切るわ。

切ってとても満足これで着たいと思った服も大丈夫。

野口 左側のサイドの毛だけ切ってみたんだけど、右の方と見くらべてごらん。
田中 切った方がやはり明るい感じがするわね。
右側は髪がおおっていてうるさい感じ。
これだったら安心です。
野口 そうでしょう。
笑ってごらん。
やはり、切ったサイドの方が楽しい感じがするよね。
一度納得するとあとはスムーズ、最初の頃の不安そうな感じは、もう消えてしまいました。
田中 サイドの毛はとても短くなったんだけど、前髪はそんなに切らないんですね。
野口 このヘアは、同じ濡れた感じでも、ペターというのじやなくて、少しボリュームを持たせているんだ。
だから、前髪は長めに残しておくんだよ。
田中 これだったら乾いた感じにしたときは、前髪をたらし気味にもできますね。
野口 ひとつのカットで、乾いた感じのときは自然な柔らかさを出せるし、濡らすとシャープな感じにもなるんだ。

カットの次はパーマをかけて、最後にもう一度カットで形をととのえて出来上りです。

田中 ア、すごく軽くなった感じがするわ。とてもいい感じ。
野口 ネ、僕が予想した通り、田中さんにはピッタリでしょう。

田中 私の友達でも髪を短くしたいんだけど、不安でふみ切れないという人がいるの。
彼女にも勧めてみるわ。
でも、これで着たいと思っていた流行の服が着れると思うとうれしいわ。

春になったし、頭をもっと軽い感じにしたかった。ニュートラヘアではショートスカートには合わなかった。

田中さんは、外資系の化粧品会社にお勤めしているOLです。
化粧品会社にいるだけあって、メークとっても上手な女の子です。
「私は最近までずっと関西の方に住んでいたんです。
向こうって、サーファーがすごく流行しているでしょう。
学校へ行っているころあんなかっこうしていたんだけど、卒業してお勤めするようになってからは,ニュートラっぽいおしゃれをするようになったんです」
という田中さん、たしかにふだんは左の写真のような、おとなしい感じのスタイルが多かったということです。
今、田中さんがお勤めしている会社は化粧品を売っているところ、もちろんしっかりお化粧はしなくてはいけないけれど、あまり派手で目立ちすぎるのも駄目、といわれているそうです。
そのせいか、洋服もお客様に不快感を与えないニュートラルック、そしてヘアスタイルも、こんな何でもないニュートラっぽいダンダンカットにしていたということです。
でも、田中さんはまだ19歳、このような大人っぽいかっこうだけではなくて、もう少し若い感じの流行を意識した洋服を着たくなったとしても不思議はありません。
「最近ファッション誌をみていると、ショートスカートってよく出てきますよね。
春らしくてキュートでとってもいいな、と思ったんです。
それに今までは、ベージュなんかのおとなしくて上品な感じの色が多かったから、春になったしきれいなパステルカラーの服が着たいなって感じたんです。
大人っぽい色の服だったらこれからいくらでも着られるでしょう」
思い立ったらパッと行動しなくては気の済まない田中さん、さっそくそんな感じの服を買いにでたのですが、試着してみるとどうもしっくりきませんでした。

おとなしく見られることもあって、髪を切ろうと決意。

「お友だちにブチックに勤めている女の子がいるんですね。
彼女にどうしてあんな服が似合わないんだろうって聞いてみたんです。
そしたらそのヘアスタイルがいけないんじゃないっていわれました」たしかに身長156 ㎝と比較的小柄な田中さん、ニュートラルックにはしっくりと合うこのヘアスタイルも、ショートスカートなんかの細身のシルエットの洋服には、ちょっと重たいような感じがしないではありませんね。
「それに私って、自分でいうのもへんだけど、実際の性格はおきゃんでハキハキしていると思うのね。それなのに初対面の人なんかにはちょっと内気で、おとなしい感じに見られることも多かったんです。
そのことも、もしかしたら髪型のせいなんじゃないかな、と思い始めたんです。
そんなことがあってから、春だしね、このさい思いきって髪を短くしてみようかな、と決心したんです」ということで田中さんが選んで行ったのは、原宿にある「モッズヘア」という美容室でした。

切る前の待ち時間が、とても不安な気持だった。

「モッズヘアはよく知っているお友だちがいたし、それにカットする前にどんなふうに仕上るかということをよく説明してくれると聞いたの。それなら安心できるなと思ってモッズヘアにきめたんです」という田中さんに、カットしたときの気持ちをきいてみました。
「受付で申込んで待っている時間が一番つらかったわ。
私はショートにして変身するんだって勇んできたはずなのに、切って私に似合うかしらってとても不安になってきてしまうの。
でも切ってくれる野口さんと話して、やっとまかせられるという気になったの」ということでした。

短くして今は最高、流行の服も着られるし。首すじを通りぬける風が、とてもさわやかな感じ。

「何といっても、切ってとても軽くなったな、というのが実感です。
前のヘアスタイルのときは、首のまわりを髪がおおっていたでしょう。
ちょっとうっとうしいな、という気持がしていたんだけど、切ってからは首すじに受ける風がこんなにもさわやかなものなのかな、と思っちゃいました」という田中さん、今日はこんなふうに濡らした感じですが、会社へ行くときなどは乾いた感じのヘアスタイルにするそうです。
「この髪って、こんなふうにするとちょっと強い印象を与えるでしよう。でもふだん乾いているときは、とても自然な感じなんですよ」
カット自体がしっかりしているから、朝起きて手ぐしで形をつくるだけでいいし、出勤前のあわただしいときでもすぐにできるからとても便利、ということでした。
「このヘアスタイルにしてからはメークも前よりいろいろ工夫するようになりました。顔が髪でれる、前のヘアと違って、はっきり出るでしょう。たとえば目はとても目立つポイントになると思うの。だからアイラインやシャドーもしっかり入れるようになりました」化粧品会社にお勤めしているだけあってメークの分析は確かです。
「一番うれしいのは、着たいと思っていた流行の服がピッタリ合うようになったことです」という田中さん、カットしたその足で前から目をつけていた洋服を買いに行きました。

ショートにしてからメークもファッションも新しい発見が。

「こんなショート丈のスカートって活動的だしね、一度着てみたいなって思っていたんです。それが似合って着られるようになったから、今はとてもうれしいの」
という田中さん、そのときに彼女が選んだのが上で着ているデニム素材のワンピースです。
「ジーンズも今まであまりはかなかったし、デニムってあまりなじみがなかったんです。でもこのワンピースだったら、活動的な中にも女らしい感じもあるし、前からずっと目をつけていたんです」
たしかにそれほど大きくはない田中さんでも、頭が小さくまとまったために、こんなショート丈のワンピースでもバランスはピッタリ田中さんにとってもよく似合っていますよね。
とにかく今はこのヘアスタイルがとっても気に入っているし、髪を切ってからは、ファッションもメークも毎日が新しい発見だという田中さん、思いきって髪を切ってみて、今は大変によかったと感じているようです。

髪を切った4人のファッション・ドキュメント

とにかく軽いんです。とびはねたい気持ちね。市川裕子

「今までの私の服って、グレーとか紺、それにちょっとくすんだようなグリーンなんかが多かったんですよね。でもこの春は、レモンイエローやシャーベットグリーンなんかの、きれいな軽い感じの色をとても着たくなったんです。そうすると、前のようにゾロッと長い髪ってまず似合わないでしょう。だから、思いきって切ったんです」
と話してくれたのは市川裕子さん、今はスタイリスト。
「それに仕事柄よく外国の雑誌をながめるんだけど、外人のモデルの茶色い髪ってあるでしょう。カーリーなんかにしても、フワフワって向こうが透けちゃうくらいの軽い感じの。あれにあこがれて、前に一度同じようにしてみたんだけど、私の髪って黒くてかたい上に、人より多いみたいなんです。
だから、まるで違う感じになっちやって失敗したことがあったの。
だから、あんな感じの軽さを出すためには、こんなふうに短くするしかないみたいなんです」
という市川さん、彼女がカットしてもらったのは、原宿にある「ファブリス」という美容室です。
自分のことをとても無器用で面倒くさがりだという彼女、カットしてもらうときには、洗いっ放しでいいということと、ブローなんかをしなくても自分である程度形がつけられるヘアスタイルにして下さいとの注文をつけたそうです。
「髪を切ってからとても気持ちが軽くなったっていうのかな。
前はどちらかというと、歩き方もうつむきかげんだったと友達にいわれたけど、こうなってからは背すじまでピーンとまっすぐになったという感じ。気持ちの上だけかもしれませんけれどもね」
といってくれた市川さん、前はまったくノーメークだったけれどもこの髪にしてからは目にシャドーを入れたりほお紅を塗ったり、メークにも挑戦し始めたみたいです。

切ったのは仕事のため。でも今はとても満足。堀内秀美

「切る前は1年間ぐらい伸ばしていたんです。だから、短くしなさいっていわれたときは、やはり惜しいな、という気がしました」という堀内さんはモデル。
あるデザイナーのショーに出るときに、服のイメージにだったら短いほうがいい、といわれてモッズヘアで切ったということです。
「切ったあと鏡でパッと自分を見るでしょう。あ、まったく違う自分がいるなって思っちゃつた。この髪って同じショートヘアでもとてもシャープな印象がするでしょう。だからショーなどでも目立つし、今までの中で一番好きです」
たしかにこの髪型にかえてからショーなどでのお仕事も、とっても増えたということです。
モデルだけあって堀内さんはかなりおしゃれ、ふだんの服もこの髪にしてかわったみたいです。
「前はスリムなパンツなんかの男っぽいかっこうが多かったの。でも短くなったら、タイトスカートなんかのかえって女らしい服が多くなりました」とのことです。

洗いっぱなしでいいし、自然なこの感じが大好き。吉本由美

「とにかく、春になって短くさっぱりしたかった、というのが切った動機よ。前に一度セシールカットみたいにしたことがあったんだけど、どういうワケか私の場合は後ろの毛がピーンと立っちゃったんです。だから肩までのストレートヘアにしていることがが多かったの。それがこの前、フランスの雑誌をみていたら、これならば私にもできそうというショートヘアを見つけたの。それで、その雑誌を持っていってモッズヘアで切ってもらったんです」
と吉本由美さんは話してくれました。
同じ短い髪でも、シャープな感じの堀内さんとは違って、吉本さんのショートヘアはちょっと柔らかな女らしさを出した感じのショートですね。
「この髪って、私が考えていたイメージにピッタリだったし、とても大好きです。何といっても手れが楽なのもいい。洗って乾かして寝るでしょう。そうするとクリンクリンになっているから、それにクシ在入れるだけでいいんです」
このヘアスタイルにかえてから吉本さん、ファッションもちょっと変わってきたみたいです。
「前の髪のときは、シェトランドのセーターに巻きスカートのような可愛い感じの服が多かったの。子供っぽいけどそれが髪には合っていたの。それがこの髪にしてからは、『2CV』の服みたいな、ちょっと流行っぽくて、派手な感じの服にもトライし始めたわね」というように吉本さんは話してくれました。

ショートスカートがはきたくて切ったんです。坂口敬子

坂口さんは音楽大学に通う学生さん、ちょっとお茶目でおきゃんな感じがする人です。
「私って外に出て動き回るのが好き。だから、友達なんかは女っぽい感じが多いんだけど、私だけいつも細身のパンツなんかでいることが多かったんです。でも、最近雑誌で見たショートスカート、とてもいいなと思ってはきたくなってしまったの。前まではカーリーっぽい感じのヘアにしてたんだけど、あれはショートスカートには重すぎる感じがするでしょう。だから思いきって、短くしようかなと思ったんです」
彼女が切ったのは代々木上原にある「ウッドペッカー」という美容室。
彼女をカットした高橋さんは「彼女、前にアンアンでやっていた髪型の特集のページを持ってきてね、短くして軽い感じにしたいというんです。それで二人でそのページを見て相談してね、手がかからなくて、ボーイッシュな中にも女らしい感じを残してということでこの髪にしてみたのです。
これだったら、自然に乾かすだけでいいし手入れも簡単ですからね」
と話してくれました。
このヘアスタイルにしてから、すぐその足でショートスカートを買いにいったという坂口さんは、「着たいと思っていたショートスカートは似合うし大満足。この髪にしてから、晴れた日なんかお弁当持って出かけたくなりました。」と話してくれました。