野口強 TSUYOSHI NOGUCHI

お二人の初めての出会いは?
野口強氏 最初は、あれですよ。トキオさんのショーで、田村さんに、ガツンと髪をきられた時ですかね。
田村 あの時のショーは、モデルさんも出たんだけど、キャラクターのある若者もモデルとして登場したんだよね。当時は、いくつ?
野口 20歳か、21歳か、そこらですね。で、当時も今くらいロングだったんだけど、もみあげ残して、1センチくらいにカットされて(笑)。
田村 でも、カッコよかったよ。ショーの仕込みのときに、トキオさんに「あのこどうします?」って聞いたら、「カッコよすぎんだよね、短くカットしちゃって」って言われたような…(笑)。
野口 でも、何も言わないでいきなりバツンでしたよ、田村さん(笑)。
田村 えっ、切るよって言ったよ。あ、でも、「切ってもいい?じゃなくてちょっと切るから」みたいな感じだったかも(笑)。
野口 で、あのショーの後に大阪から東京に出てきたんですよ。
田村 大久保さんのアシスタントを始めたんだよね。
野口 ええ、そうですね。僕のこと知らない人は、モデルからスタイリストになったと思っている人も多いんですけど、実際はスタイリストのアシスタントして、トキオさんみたく知り合いの人の仕事だけモデルをやるって感じだったんです。確かに後半のほうは、大久保さんに言われて、モデルクラブにも籍だけは置かせてもらってましたが。
田村 それで生活費を稼いでたわけだ。
野口 面白い仕事はもらったんですけど、ギャラは安かったです。それよりもお金では買えない体験というか、いろんな人たちの仕事を見させてもらったり、知り合いができたりとか。それが財産になってますね。
最初のビジュアルを投げることで画のキャッチボールが生まれる。
田村 ところでクリエイション活動では雑誌の撮影が好きとか、広告の撮影が好きとか。そういうのはある?
野口 広告が結構、ダメなんです(笑)。やっぱりクライアントの人たちのジャッジが大きいから。もちろん、面白い広告もあるんですけどね。その点、雑誌だと、スタッフとやり取りしながら向かって行けるじゃないですか。そこがいいんですよね。
田村 そんな現場での面白いエピソードってある?
野口 瞬間、瞬間が交通事故みたいなもんで、毎回、ドキドキですよ。本当はこうだったのが、全然、別の方向に進み出したりとか。またそれが良ければ、なおさらに盛り上がるみたいな。あと、取り終わったときは「うわっ、いいじゃん!」ってみんなで言ってても、不思議とそれが本になったときに「あっ、もう少しこうとけばよかったな」って、毎度あるわけですよ。で、「もっともっと」ってなるから、辞められないんだろうし、満足しないんだろうって。
田村 それと、何人かの人に聞いたんだけど、強君は写真が好きだからだと思うんだけど、出来上がりの画から考えてくれるんで安心して仕事を任せられるって。自分ではどうなの?
野口 そうですね、洋服だけだと面白くないって訳じゃないんですけど、せっかくみんなでやっているんで、最終的な画を、「こういうのはどう?」って投げかけて、みんなと納得いくまでやるのが、いつものスタンスなんです。だって投げれば、そこから「それならこういうふうに撮ってみようかな」ってカメラマンの人が話して、ヘアや、メイクの人たちも「じゃあ、こうしてみない?」ってキャッチボールが生まれるんですよ。
田村 そこだよね。だってさ、逆で言うとこういうコーディネイトしてやろうって現場に来て、その通りにならないとふくれちゃう人っているじゃない(笑)。
一同爆笑
田村 ヘアメイクでもいるの、そういう人は。こういう頭やりたくて来てるみたいな。でも、そこで周りの意見聞いて、動ける幅の広さって言うのかな。守備範囲の広さが必要なんだよね。だって目的は、そういうコーディネイトや頭をやることじゃなくて、完璧な画をつくり上げることだから。強くんは、それを知ってるよね。だからテリー・リチャードソンとか、カメラマンもキャスティングしたりするでしょ。
野口 テリーにしてもそうだし、この間、ニューヨークで活躍しているドイツ人の女性カメラマンと「ヴォーグ」の仕事で一緒に沖縄に行ったんですけど、みんな、そういう感じでキャッチボールしてくれるんで。「オレはこう撮る。だからこういう服にしてくれ、それ以外はおまえらノータッチだ」みたいなスタンスよりも、やっぱ、キャッチボールの方が楽しいし、納得いく仕事が出来ますから。
田村 ピラミッドじゃなくて、誰もが意見を出し合い、平等にクリエイションをいていく感じだね。
野口 ええ、三角形じゃなくて、輪だといいですよね。そして、この輪の中心がヘアメイクの人になったり、カメラマンになったり、スタイリストになったりしてみんなでキャッチボールし合うっていう。
煮詰まることは考えない。とにかくとことんやってみること
田村 何かをつくっていくなかで、撮影中とかに煮詰まったりすることってある?
野口 煮詰まるときもありますけど、あんまり考えないようにしますね。で、現場でもう、いろんなコーディネイトを試してみるしか方法はないかなと思います。頭だけで考えててもしようがないんで。とにかく、トライしてみようかなっていう。
田村 頭で悩んでても仕方ないから体をつかえってか?(笑)。
野口 ええ、もうやるしかないっすから、とにかく。そんな僕らを見て、周りが「また着替えますか」みたいな。「ぶつかり稽古」みたいなもんですよ(笑)。
田村 番長っぽいね(笑)。それから、最近だと、撮影以外に、いろんなブランドとコラボで「強モデル」をつくる仕事もしてるけど。
野口 つくるほうは、年2回くらいにしてます。最近だと、「ヒステリック・グラマー」とかやらせてもらいました。やっぱ大変ですよね、「餅は餅屋」なんで。例えば、Tシャツ1枚とか、デニム1本つくるにしても、もの凄く時間とパワーがいる。だから、洋服作るならスタイリスト辞めるべきですよ。そうじゃないと、洋服つくっている人に失礼なんで。それを両方やっている人がいっぱいいるじゃないですか。いけしゃあしゃあと人の展示会行って、コレクション見て、同じようなものを出してるヤツらがいっぱい。やっぱ、その辺の線引きはしておきたいです。
田村 なるほどね。そんなこだわりの男、野口強が、ヴィジュアル表現をするときの合格点はどこで出すの?
野口 撮影した直後よりも、本になった時に、見る人たちがどういう判断をするかってところに、合格点が出ると思うんです。だから自分たちの中では、一応、合格店に向かって常にやってはいるんだけど、最終的な合格点は、やっぱり誌面ですかね。
田村 それ、評価は人がするものだってことだよね。
野口 と、思うんですよ。だから、こっちはボール投げたから、読者の人たちがどう打つか決めてっていう。
田村 その評価の割合はどのくらいがいいの?
野口 賛否両論、半々くらいがいいと思います。
田村 なんか投げつけてるって感じでいいね。
自分のエネルギーは「人」。
そしてトータルで考えるバランス感覚
田村 それと、今回ね、すごく前向きでモチベーションの高いクリエイターたちに話を聞いているんだけど、その辺のエネルギーって、どこからきているのかな?
野口 エネルギーですか。やっぱ、「人」ですね。プライベートでもそうだし、もちろん仕事でもそうですけど。それがエネルギーでもあるし、財産でもあるし、本当、「すべて」です。だって、僕の場合、いろんな人に手伝ってもらってやれる商売ですからね。「mod’s hair」の加茂さんなんて、すごいエネルギーで後ろからボーンと突進してきたりとか(笑)。
田村 全身で来るからね、彼の場合は。体調よくないとね、受け止められないんだよね(笑)。
野口 前日の夜から投げてくるときありますから、電話で(笑)。本当、面白いですよ。だから辞められないんです。でも、少ないと思いますよ、そういう人って。加茂っちもそうだし、戎(えびす)くんもそうだし。
田村 その人たちって、ほかの人たちに比べて何なの?
野口 なんだろう、やっぱり、どこか突出してすごいエネルギーがあるというか。モノづくりに対しての執着心というか、執念があるというか。
田村 そうだね、それは分かるね。では、最後に「Shinbiyo」読者の皆さんたちに何かメッセージ、ある?
野口 美容師さんに昔から思うのは、みんな切りたがるでしょ。それはいいんだけど、その人の普段着とセパレートして考えるような人が多いような気がするんですね。だから、自分はこの髪型を提案したいと思っても、お客さんの普段着には合わないなら、もう少し違うデザインにしようとかね。もっとね、トータルで考える提案をして欲しいです。もちろん、昔よりはそんなことはないんだろうけど、ただ、あんまり押しつけがましいのもどうかなって。
田村 ヘアスタイルもファッションもその人自身を表す重要なアイテムだものね。
野口 ですね。頭はカッコいいけど、洋服はダサいじゃさ、逆に洋服良くて髪が全然違うでも、カッコつかないっていう。あと、田村さん、僕一つ、思うのは、美容室のクロス。あれ、ちょっとって思うんです。カッコいいのつくったらどうなんですかね。前にも「加茂っち、あれのカッコいいのつくって特許取ろうよ」って言ったことあるんですけど笑い。
一同 大爆笑。