加茂克也 KATSUYA KAMO
加茂克也 katusya kamo
「モッズヘア」田村哲也氏がホストとなって、エッジのきいたクリエイターと繰り広げる対談企画。ヘアメイクアーティストの加茂克也氏を招いての師弟対談です。アシスタント時代の意外な思い出からクリエイションの裏側まで、師匠・田村氏だからこそ引き出せる加茂氏の秘密を紹介します。Sinbiyo2007
田村哲也氏(以下、田村)加茂が「mod’s hair」に入ったのが88年だから、もう19年になるんだね。あのとき、いくつだったの?
加茂克也氏(以下、加茂)22,3歳です。今考えると、大変だっただろうなーと思って、田村さん(笑)。僕、本当に何も知りませんでしたからね。
田村 そうだったかな?まあ、俺が聞くのも何だけど(笑)、アシスタントについてて、どんなことが一番勉強になったの?
加茂 仕事のやり方から、人との付き合い方から、すべて勉強になりました。田村さんに「何も、見てないね」って言われたこと、よく覚えてます。
田村 そんなことあったかな?どういうこと?
加茂 例えば、田村さんに「さっきのモデルの被ってた帽子、かっこいいよね」って言われても、僕は見てなくて「そうでしたっけ?」ってなっちゃう。
田村 当時は、周りを見る余裕がなかったのかな?
加茂 そうかもしれませんね。でも、それ以降は、ずうっとチェックしてますよ、かなり(笑)。観察は必要ですね。来てる服にしろ、行動にしろ、その人のすべてが出ますから、観察するとわかりますよね。
田村 じゃあ、そういう細かいことまで、きちっと見ておかなきゃいけないって思うようになったんだ。
加茂 はい。あと、田村さんについていて、いろんな人に会ったり話を聞いたりするじゃないですか。もう毎日、大変なことが起きるんですよね。何それ?何これ?うわっ、聞いたことないそれ、とか。
田村 僕がスタイリストやカメラマンと「〇〇の映画に出てきたあれさあ」とかって、話してるわけだ。
加茂 で、その時は見たふりして、それをメモッといて、帰ってからビデオ屋でそれを借りて見たり。
田村 映画とかを?
加茂 休みの日とか、映画館行くんですけど、疲れきっていたから、終わった瞬間に目が覚めるんですよ。それで、またビデオ借りるんだけど、また寝ちゃう(笑)。その繰り返しですよ。映画以外に写真集や美術書も。
田村 相当、見たでしょう(笑)。
加茂 相当見ました。とにかく、田村さんたちの話題を追いかけるのが大変でした。それまでは、音楽にはちょっと触れることはあったとしても、アートに触れることは、まずなかったから…。
ギリギリラインでクリエイトする加茂克也のバランス感覚
田村 俺なんか、インターンの頃から、先輩技術者の仕事見て「このお客さん、俺だったらこんなふうにして、もっとかわいくできるのに」って思ってたんだけど(笑)、加茂君は、俺の仕事見ながら、そういうふうに考えたことないの?
加茂 自分だったら…って、考えたことはないですね。
田村 そうなんだ。俺と加茂君は、つくるものが正反対だから、そういうこともあったんじゃないかなって思ったんだけど…。当時は、口が裂けても絶対に言えなかっただろうけどね(笑)。
加茂 自分でやるようになった頃、田村さんと同じ方向には行かないようにしようって思ってましたね。
田村 「しよう」って思ったんだ。俺のコピーになっても仕方ないって、そういう意味で?
加茂 そうです。違う方に違う方に行こうって。
田村 なるほどね。今でも忘れもしない、当時、加茂君が「作家的な仕事をするようになりたい」って言ったんだよね。
加茂 そうでした。
田村 うん。びっくりしたんだよ。僕は自分で提案したものが街を歩く女性に影響できることを重視してて、ナチュラルでさり気ないスタイルが好きだったから。そういう僕のアシスタントについていながら、「作家的な仕事ができるようになりたい」って言ったから。どの辺りから、その「作家的」っていうのを思うようになったの?
加茂 その頃って、いろいろ勉強するじゃないですか、アートとか。で、シュールレアリスムも、その頃始めて知って。それまで、見たことなかったですからね、びっくりしましたよ。シュール系って、強いですよね、イメージが。ああいうのをつくる人になりたかったんです。今も、シュール系の作品、大好きです。
田村 ああ、なるほどね。マルセル・デュシャンとか、マン・レイとか。そういうのを見て、意識したのね。それは失礼いたしました(笑)。当時、よくからかってたよね。「加茂は、作家志向だからさあ」って、大した仕事してないうちから、そんなこと言ったやつ、いないからね。
加茂 当時、作家的になりたいっていうのは、普通じゃ嫌っていうか、こういうの(写真にある、コレクションに使用するウイッグを指して)をつくることが、作家的だと思ってたんでしょうけど。今となっては、自分のやってることが、作家的だと思わないんです。一般の人にも、意味がなければいけないと思ってます。
田村 意味って言うのは、どういうこと?
加茂 例えば、このウイッグを見て、誰が見ても、何かかわいいなとか、ちょっと面白いじゃんとかって思ってもらえる、ぎりぎりのところ。よく、クリエイティブすぎると理解できないところってあるじゃないですか。そこには、自分はいたくないなって思ってて。田村さんと近いですよ、俺。
田村 どこがっ?(笑)
加茂 ええっ、近くないですか?(笑)仕事の中で、一番大事にしてるところなんですけどね。僕のつくるものは、人には理解できないところが多くあるので、少しでも理解してもらいたいなって。行き過ぎないというか。ナチュラルな部分を残すとか、きれいな部分を残すとか。強い中にビューチィフルな感覚を残すとか、すっごい汚くてもちょっとかわいいよねとかって感覚は残しておきます。
田村 そういうのは意識してるんだ。それは僕と同じ、てんびん座のいいところでもあるね。
田村・加茂 バランス感覚(笑)。
加茂克也が考えるヘアメイクアーティストの領域
田村 「フレンチ・ヴォーグ」の編集長カリーヌが、加茂君をすごく気に入って、直接ブッキングしてくれて、パリやニューヨークに行って仕事するようになったのは、ハンデじゃないの?
加茂 ハンデじゃないですね、逆に良いくらいです。
田村 どこがいいの?
加茂 アイデアソースだし、世界のどこと比べても、東京は別世界ですからね。ずっと東京にいると、そういうふうには感じないんですけど。東京の面白さとか空気感を持って向こうに行くと、仕事するにはいい環境ですよね。東京と向こうの違いが、自分に与える影響って大きいと思います。
田村 ジョニオ君もそんな事いってたな。感覚が変わるから、いいアイデアが出てきたりするんだ。じゃあ、東京にいて、ブッキングあれば海外で新しい仲間と仕事するっていうのは、まあ、理想的なスタンスなの?
加茂 悪い感じじゃないですね。彼らにとって、特別な人でいれそうな気がするんです。
田村 「フレンチヴォーグ」の2月号で加茂君の特集を組んでくれたときに、「加茂君のつくる作品というのは、常軌を逸したものであって…」って書いてくれてるんだけど…。
加茂 本当に、理解できないんだと思いますよ。
田村 欧米の人っていうのは、基本はリッチなビューティフルヘア、量感豊かで、艶やかできれいなヘアが理想だからね。ヘアデザイナーでありながら、加茂みたいにしちゃうのって、理解の外なんだろうね。
加茂 そうでしょうね。僕の周りに、向こうのリッチな美しさとか求めてる人っていないですからね。僕も憧れないし追いかけてないし。
田村 そこが、東京を拠点にしている加茂らしさになってるのかもしれないしね。パリに住んで、そういう人を相手にしてるヘアデザイナーには、逆立ちしても加茂君みたいな発想はできないよね。
加茂 そうかもしれませんね。
田村 「これまでのヘアスタイルの概念を完全に逸脱した」とも書かれてるけど。前回の渡辺さん(渡辺淳弥)のコレクションでも、フェルトの帽子をつくってたし。俺、よく「それ、ヘアデザイナーの領域を超えてない?」って、言うんだよね。
加茂 よく言われますよ。でも、一番初めは、やっぱりヘアでやるんですよ、いつも。やりたいとも思いますし。で、やってみるんですけど、「いや、こんな頭して歩かないでしょう、普通」みたいな感じになっちゃうんですよ。じゃあどうしよう、でも強いものをやりたいってところから発想して、違うテクスチャーを使ってみたり…。そうすると、こういうふうに、ゴーンッと行っちゃうんです。
田村 じゃあ、自分の中では、毎回ヘアの領域って意識はあるんだ。
加茂 あるんですけど、結果は微妙ですよね。
田村 渡辺さんも、「それいいねって、やってもらいました」って、すごくサラっと受け止めるんだよね。この連載の7月号で渡辺さん直に話をしてみて、すごくいい関係ができてるんだなって思ったよ。
加茂 そういう環境が、僕の周りにあるってことなんですよね。有り難いですよね。でも、いつでも周りの意見に合わせるスタンスでいるんですよ。先日、カリーヌと話した時も、「ヘアメイクのトップの人達はこだわらない。状況に合わせて、どんどん変えていける人じゃないと仕事ができない」って言われて、それは正しいなって思いました。僕もそういうスタンスだし。カリーヌに「これは、ちょっと…」っていわれたら、「あっ、ですよねー」って言って、ピュンピュンって変えますよ(笑)。
田村 それ聞いた人は、すごく意外な感じするんじゃないかな。加茂がやってる仕事見ると、すごくこだわって、頑固に自分のやりたいことを主張してやってきてると思うよ。
加茂 いやあ、こだわってたら、こんな仕事できないですよ。違うって言われればすぐに変えていくんですけど、結局僕も不器用なので、そんなに大きくは変わらないんですよね…。
田村 でも、それは渡辺さんとかカリーヌとか、自分が認めてる人が言った場合でしょう。
加茂 それはそうですよね。
田村 やっぱり、そうだよね(笑)。じゃあ、自分自身の合格点は、どこでつけるの
加茂 タイムリミットですかね。
田村 時間があれば、終わりはないんだ。
加茂 体力と時間的な問題だけですね。ショーであっても撮影であっても、やることは同じですよね。どこまでっていうのはもう、やった仕事で最終的に判断するしかないと思ってて、いつまでできるかとは考えますけど、どこまでっていうのはないですね。
田村 そういうところ、加茂は、すごいタフだよね。時間がある限り、ずうーっとやってるもん。
加茂 性格ですね、これは。
田村 そこまで突き詰めるから、一歩抜けたんだと思うよ。その、何ていうの、粘着質っていうか(笑)
加茂 あー、へび年ですからね。
田村 いや本当に尊敬する、そのタフネスは。身体もタフだけどね。その精神面ていうか、自分のつくるものに対する貪欲さは、あまり見たことないよね。なるほど、加茂君は時間が許す限り、ね。
加茂 そんなカッコイイもんじゃないですけど、時間はいつか来ますからね。どこまで、やっていいかわかんないんですけど…。時間が決めますからね。で、時間がくれば、もう行くしかないですから。それが偶然ですから、偶然がいちばんいいですよね。