若槻善雄 YOSHIO WAKATSUKI

-そもそも、若槻さんはなぜ、ファッションショーの演出家を志そうと思われたのですか?

若槻善雄 Yoshio wakatsuki

若槻 中・高校生時代、アイビーだった兄貴の影響もあり、「メンズクラブ」を毎月買ってたんですよ。それに「君もマーチャンダイザーになるか?」みたいな広告が出てたんです。で、マーチャンダイザーって何だ?って調べてみたら、商品を決めてく人みたいなことが書いてあって、面白いなと。当時、モード学園が、ボブ・ジェームスの曲で「豚に真珠は似合わない」ってCMがあって…。
田村 過激な広告だったよね。
若槻 そうそう。それを見て、とにかく東京に行こうということになり、モード学園に入った。入ってみたら、当初は、何かちょっとだまされたな感があったんですよね、自分の中に(笑)。でも、非常勤講師で来ていた江橋さんの講義で、山本寛斎さんのショーのビデオを見せられて。世の中にこんな世界があるんだって、そのとき初めて知って、面白いなーと思ったのが最初ですね。
田村 学校に入ったばかりの頃は、ショーをコーディネイトとか、演出するって仕事は知らなかったんだ。
若槻 全く、知りませんでした。それから、いろんなショーを見に行くようになって…。でもまだ学生でツテもないから、毎日のように新宿西口から東口に日参して、丸井のお姉さんと仲良くなり、「ファッションショーやるわよ、行く?」って言われるのを待ち、チケットを何とか手にする、というのをよくやってましたね(笑)。一生懸命背伸びして、当時、ツバキハウスで仲良くなるお姉さんとかに、もう言い寄って言い寄って。って、口説くわけじゃないんですけど(笑)、「何とか、ショー行けないっすか?」って。で、江橋さんのツテでタッチに入り、学生の頃から四方さんのやってるショーが好きで、そればっかり見に行ってたこともあって、2年後に四方さんのところに入ったという感じですね。
田村 学校に行った価値あったね。そういう仕事の存在を知ることができて。
若槻 そうですね。知って、実際に、その仕事に携わるきっかけをつくってくれた人にも会えたし。

リスクのない人生なんてつまらない
常に興奮していたい
田村 UNDER COVERのジョニオ君が、「ショーの打ち合わせで、義雄ちゃんは人間性がパンクで、そこまで行っちゃうみたいな提案をしてくる。「『もっと面白いアイデアないの?』というよりも、過激なのを抑えていくほうが楽だからすごい助かる」って言ってたよ。
若槻 そうですね。いつも「そこまでは、やりすぎです」って言われます(笑)。ジョニオくんの場合「何かないっすか?」から始まるから、そこでこじんまりしたこと言っても前に進んで行かないんで、ドーンッと大きなことを言って、僕も探ってるところがありますよ。
田村 それもすごいね。「何かない?」なんだ。
若槻 それは、川久保さんも一緒なんですよね。
田村 大半のデザイナーは、今回のテーマやイメージを説明してってプロセスを踏むけど、川久保さんの場合は、説明もしない、テーマも教えない、服も見せないで、相手が今何をしたいのか聞くんですよね。
若槻 まさに、そうですね。「どうしたい?」って。どうしたいって…、もうちょっと、何か聞かせてくれません?みたいな感じで始まります(笑)。
田村 そうだよね。ヒントは?って感じだよね(笑)。
若槻 ジョニオくんの場合は、服を全部見せてくれて「どうしましょうか」って感じ。プロセスは違うけど、求めてることは一緒なんです。
田村 つまり、あなたの中で、今一番カッコいいと思うものを、私の為に出してってことだよね。
若槻 そうです。そこでの火花の飛び散りあいを楽しんでるんですよ。すごい余裕ありますよね。
田村 相手の要望をただ上手くまとめてショーに仕上げるだけじゃなくそこで何か提案してプラスしていかなきゃいけない。自分を賭けるわけだから、リスクもあるよね。
若槻 自分をプラスしていかないと、僕の存在意義もないじゃないですか。やっぱり、常にリスクはありますよね。でも、リスクのない人生なんてつまんないかなって思うんですよね。リスクがないと、人間て成長できない気がするし。川久保さんたちと火花を散らすみたいに、常に興奮してたいじゃないですか。こうでなきゃいけないみたいな、決められたレールを進むだけじゃ、新しいものは生まれてこないですし。
田村 ショーにも、こうでなきゃいけない、みたいな決まり事ってあるの?
若槻 あります。カメラマンが撮影できるように明るくしろとか、モデル一人一人押さえられるテンポで出て来いとか。工場の生産ラインに乗ってるわけじゃないんだから、そんなの温かみがねーだろって(笑)。
田村 それ、まんま「プラダを着た悪魔」みたいな人じゃん(笑)。わざと遅れて来たりするんだよね。
若槻 で、始まってもサングラスしたまんま、下向いてますけどね(笑)。自由であったファッションが、権威的なものになっちゃったのを感じますよね。真っ暗なステージで服を見せるのも表現方法としてアリだろうと、僕は思ってるんだけど。興奮しないと、ファッションは絶対面白くないと思うし。
田村 善雄ちゃんが、演出家として支持されつづけてる理由は、そういうところにもあるのかもね。トップに上り詰めてくると、守りに入ってリスクをとらなくなるじゃない。そうすると、頼むほうが、もう面白くなくなっちゃう。刺激もくれないし。そこで、毎回興奮してやってくれるってことは、デザイナーと同じテンションでドキドキしてるわけじゃないですか。
若槻 まあ、どきどきしないとつまんないっすよね。
田村 それが善雄ちゃんの強さだと思うんだよね。
若槻 うーん、そうであってほしいですね。
さまざまな経験と人との出会い
豊かな時間の蓄積がアイデアソース

田村 そうやって「どうしたい?」って難問を投げかけられても、アイデアって、泉のように湧き出てくるわけじゃないでしょう。
若槻 それはもう。振り絞ってますよ(笑)。すごく悩みますし。
田村 どういうところから、浮かんでくるの?
若槻 家にいる時とか、毎週海に行ってるんですけど、車運転しながらとか、そういう時ですよね。なんかこう、何か発想浮かんでくるときって、さあ仕事しようとかってときじゃないですよね。常に10個くらい提案が頭の中にあって、それぞれについて、ちょっとずつアイデアを頭の中に蓄積していって、気になることは書き留めておいて、ってやり方ですかね。
田村 いろんな情報収集とかも必要でしょう。
若槻 もちろん、芝居とか舞台とか見にいきますよ。特にダンスは好きで、ピナ・バウシュという女性演出家の作品は好きですね。もちろん、そういうのからヒントを得ることはありますけど、それを真似しようというんじゃなく、頭のどこかに残しておこうって感じですよね。あとは、ダイヤモンドヘッドの夕日のオレンジとか、パリの太陽が沈みかけた空の、紫がかったようなブルーの感じとかを見ながら、どうやって表現できるかなとか、考えたりしますよ。そうやって常に、いろんな物を見て蓄積していくんです。それがデザイナーと話しているときに、ピピッと一本につながって、向こう側に見えた!みたいに出てくるんだと思いますけど。

田村 総合的な仕事だもんね。音があって、光があって、人がいて、見なきゃいけない洋服があって…。

若槻 そうですね。ガキの頃から音楽が好きで人が好きで、洋服が好きで、いいとこに落ち着いてんのかなって感じはあります。そういう意味では、80年代から、NYとかロンドンとか、世界中に遊びに行ってたのは、貧乏でしたけど、すごく良かったのかなって思いますね。あの時代に、その場所を生で見たっていうのは、貴重な体験になってます。美術館とかもみたし、街に出ていっぱい遊んだし。
田村 そういう時間や経験って大切だよね。
若槻 そう思います。先日、ノブと二人で、モード学院に講義をしに行った時、学生たちからパリのオススメスポットを聞かれて、「橋の上に行け」って言ったんですよ。橋の上に行くと、いろんな人たちがいて、いろんな服を着て、いろんなことをしてるから、そういうのを見てきなよって。でも、学生たちは買い物スポットとか知りたかったみたいだけど(笑)。なんか、物だけで時間が過ぎていくのって、一番プアな気がするし。そうじゃないもっと違う視点で、時間を楽しんだ方がいいよ、って彼らに言ったんですよ。
田村 人との出会いも大きいんじゃない。仕事仲間とか、プライベートの友人とか、そういう人達とも刺激し合ってる感じだよね。
若槻 もちろんあります。例えば、強が最近「HUGE」で巻頭ページを担当してるんですけど、それを見て「やられた」って思うと、すぐに電話して話をしますし、オレももっとやんないとって思いますし。
田村 確かにね。そういう仲間たちがみんな、力を発揮できるポジションにいるということも大きいよね。どんなに才能があったって、どんなに頭の中にイメージが膨らんでても、ステージがないと見せる場がないからね。今、そういうステージに上がって力を発揮できる人達が、結構横のつながりもあって、お互いに刺激し合って、いい関係を築いてるんだね。
自ら望んで苦労すればその経験が将来的に生きてくる

田村 最後に、「Shinbiyo」読者である、若い美容師さん達に、メッセージをお願いします。
若槻 経験的に、自ら望んで苦労した方が、将来的に生きるのかなって思うんですよ。僕、四方さんのところにいたとき、送り迎えしたり外で待ってたり、四方さんのドライバーもしてたんです。そういうことをやっていたから、いろんな人にも出会えましたし。四方さん抜きで合う時も、気にかけてくれるじゃないですか。「お前、四方さんとこの子だよな」って。そういうのは、すごく大きかったですよね。美容師さんだったら、タオルとか洗いに行く時、ただ洗うのは誰にでも出来るけど、例えば、若槻君の洗ってきたタオルで拭くと気持ちいいよねって言われた方が、その人のためになるし。そういうちょっとしたことでも、努力することによって、見えないけどすごいって思われることが必ずあるはず。
田村 人のしないことをすれば、人には来ないチャンスが訪れることもあるよね。
若槻 そう思います。僕、名前の善雄の「善(ぜん、よし)」って言葉は好きで、自分の行動の基本にいつもあるんですよ。例えば、ショーの現場とかで、ちっちゃなゴミが落ちてたら、必ず拾うとか。ちっちゃい事でも善行ってことですから。そういうことは気をつけよう、と常に思ってます。あと、ショーの現場では、デザイナーって不安ですからネガティブな発想をしがちなんです。そういうときこそ、僕は常に前向きにいたいと思う。僕がいることによって、次に行けるんだとしたら、僕がネガティブに絶対にならずに、ポジティブに「よしっ、行こう」って進みたい。それが自分の役割だと思っています。これも「よし=善」ってことでね(笑)。