天井桟敷は渋谷から麻布に移った

演劇零年・理性とは二流の狂気である。
桜散る散る癩狂院に 姉さん殺した斧一本 血まみれの書簡の 法医学。
文法違反の詩人と少女が乗り込んだ<阿呆船>銅羅だ!汽笛だ!心臓だ!

渋谷区渋谷3-11-7にあった演劇実験室天井桟敷も、7年目で退去せざるを得なくなった。
新しいビルが建つという理由の背景には「演劇など必要としない」市民の相対的な安定を望む感情を認知しないわけにはいかない。
市街も劇場も喪中に没し、表れてくるのは白け時代の事なかれ主義の輩ばかりというわけだ。
思えば、この天井桟敷が粟津潔の奇想天外のデザインで、日常を異化するべく渋谷の街に出没してから、7年の間に様々な出来事があった。
天井桟敷の「時代はサーカスの象に乗って」「イエス」「がりがり博士の犯罪」などの新作の他にも、毎週火曜日夜の「白夜討論会」、わが国で初めてのニューヨーク東京ビデオ・エクスプレス。そして多くの映画作家を輩出したアンダーグラウンド・センターの主催するアンダーグラウンド・シネマテークの定例上映会。
天井桟敷は、単に一劇団の私物劇場としてではなく、多くの小劇場や上映団体、そして現代音楽やジャズにまで及ぶ表現者たちの「共有の場」としてあった。
いま、この建物におさらばの挨拶を送るのは、去ってしまった時代への感傷に似る。
私たちは、この小さなおんぼろ劇場を立ち去るにあたって、多くの人々にありがとうを言い、この1建物の終焉を、ただの句読点としてのみ受け止めることにしよう。
町内会の皆さん、澁谷警察御一同さん、葬儀屋のおじさん、パスポート写真撮影の写真館主人さん、平野屋出前持さん、マロリーのお姉さん、三松の親父さん、つぶれた銭湯並木湯の番台さん、花膳のブリカマさん、場外馬券売り場の予想屋さん、どさんこマスターさん、ベルデのバーテンさん、ツモローの御一同さん、アマンドのウエイトレスさん、アダンススタジオさん、長い間ありがとうございました。こんど、私たちが帰ってくるのは、市外劇の「出演者」として、ノックするときです。

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