高円寺・阿佐ヶ谷・杉並区と寺山修司

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市外劇「ノック」の戦略
1975年4月19日、杉並区一帯を用いて上演された市街劇「ノック」はちょっとしたスキャンダルとなった。
当時の新聞を見ると、サンケイ新聞の見出し六段抜きで「天井桟敷演出オーバー、フロ屋さんもびっくり、気味悪がり逃げ出す客も」とあり、本文は八段にわたっている。


「人騒がせな芝居が横行している。実験演劇と称して、突然、異様な姿で場所をかまわず登場し、住民や通行人をびっくりさせる。
20日は、何の前触れもなく、東京、杉並区の公衆浴場にあらわれて騒ぎ、前日には包帯姿で団地の主婦を驚かせた。
この劇団は天井桟敷(主宰者、前衛演劇家、寺山修司)。やっている人たちは芸術と思っているのだろうが、やはり迷惑をかけるのはほどほどにしてもらいたい」というリードで、百四十行の非難の本文が続いている。朝日新聞は五段抜き。「怪人(全身包帯車いす)夕やみのノック 団地夫人が仰天 杉並署がオキュウ「天井桟敷」の市外劇」という見出しである。
市街劇という呼び方にすでに世論のマニピュレーションが始まっているということがわかる。
読売新聞の場合は一度社会面に「ストーリーは迷惑だった?警察注意も劇の一部」と閉幕」という記事を載せた後、改めて「今日の断面」という欄に取り上げて論評し、「今度の市外劇でも、地図を片手に右往左往したとはいえ、観客はそれなりに芝居を楽しんだことだろう。参加することに意義を感じ、いつとはなしにだれかが買ってきた酒を飲みまわし、若者同士の連帯感を持つと同時に、都会の孤独からの脱出を試みた向きがないとはいえない」
という見当違いの理解を示した後で、「しかし、俳優と観客はそれでもいいとしても、この芝居に何の関係もない市民までハプニングに巻き込んでよいものであろうか。それも、芝居の一部と言っても、出演料ももらっていない市民がいきなり芝居に参加させられて、一種の晒しものにされたのでは、シラケるのを通り越して怒るのが当然である」と批評を加えている。